サンタフェ

ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪 シーズン1のサンタフェのレビュー・感想・評価

5.0
いや〜制作してくれてありがとう。Amazon大好き。

スコアはとても迷いました。が、やはり本作だけはキャストへの人種差別と事実ではない原作無視偏見に引っ張られて低評価になるのは嫌だったので無条件⭐︎5をつけさせてもらいました。一番嫌なのは原作勢にも凄く楽しんでいる方々がいっぱいいるのに勝手に原作勢に不評なことにされていること。

さて感想。いろいろとありすぎて無理なので箇条書きに書き殴ります。

・まず映像が綺麗すぎ。風景が綺麗すぎ。ニュージーランド最高〜。美術も綺麗すぎ。VFXも綺麗すぎ。4k HDR配信ありがとうすぎ。毎週映像だけで⭐︎4.5を担保するくらい綺麗でした。

・個人的に一番大事なところ。やはり指輪は善を描いてくれるのが本当に好き!配信前から当然のようにゲーム・オブ・スローンズと永遠に比較されていました。たしかにアフターGoTを確実に感じるシリアスさと踏み込んだ戦闘描写(特に6話)でしたが、過度なエログロはなく、何よりも常に作品として登場人物の善性と希望を持つことの大切さから逃げなかったことが本当に嬉しかったです。そういった視点では7話が本当にお気に入りで、あれだけ絶望的な状況になりながらも逆に各登場人物たちの希望が光り輝く演出が最高でした。

・本作は1-3話あたりはロードオブザリング&ホビットのエクステンデッド版一気観と並行していたのですが、一番感じた差は(キャストと)街の大きさでした。特にヌーメノールとカザム=ドゥームは本当に人々の生活の営みが感じられて最高でした。映画はローハンも村って感じで、ミナスティリスも城+ちょい一般市民な感じでしたからね。

・ドラマとして偉いなと感じたのは、毎話アクションシーンを入れるぞ!という意図を感じたことでした。アロンディルさんが序盤を引っ張ってくれましたし、6話はいうまでもなく圧巻でした。資金力に差がありすぎるので比較するのは可哀想ですが、それこそゲームオブスローンズS1に比べれば圧倒的に目に面白い作品で、普段海外ドラマを観ない人でもだいぶ観やすかったのではと思います(私はゲースロを序盤3話くらいで何度も挫折し続けた)。

・アクションシーンにスローモーションを多用したがるのはAmazonスタジオさんの好みという感じですが、個人的にはここのアクションが純粋にアクションだけでテンション爆上がりするくらい格好良ければ作品の満足度が一段階上がるかなとなり残念でした。ホイールオブタイムもそうですけど、なんかAmazonスタジオのアクションってちょっとイモっぽいんですよね。リーチャーやターミナルリストなどハードボイルド系アクションは格好良いんだけどな〜。お洒落系アクションが上手いスタッフを追加してほしいですね。6話はとてもよかったですが。

・原作の指輪物語やシルマリルは、物語そのものが作者であるトールキンが赤本と呼ばれるホビット族が書いた資料やエルフの伝承を英語に書き起こしたものであるという設定があります。そして本作はいわゆるその”正史”に描かれていない存在にもフォーカスを当てたことが本当に面白かったです!これは単純に昔に比べて勧善懲悪で済まなくなった現代のエンターテイメントという視点でももちろん、この中つ国の世界の歴史観という意味でもとても面白かったです。中つ国の世界観をさらに広げてくれる素晴らしい作品でした。もちろんアロンディルやブロンウィン、テオの配役に関しても同様の理由で私は大賛成でした。

・そもそも原作である中つ国の世界は元々ハラドや東夷など中東やアジアの世界があることが示唆されているのですが、時代柄かなり西洋からの視点に限定されており原作準拠といえば聞こえはいいですが設定自体は全ての前提が西(金髪白人)ほど崇高な種族で東(褐色)ほど醜く邪悪な種族という設定であることは逃れられない事実なのです(あと、あまり知られてないかもしれませんが、中つ国はいわゆる異世界ファンタジーではなく現実の世界の遙かなた昔の世界=地理的にはヨーロッパのお話という設定の作品です)。トールキン自身もイギリスという国の威信復興みたいな視点を作品に込めていた旨を語っていたので(シルマリルのトールキンの手紙を参照)、実際その辺は2022年のグローバル社会となってはやや危うさがあるのも確かなのです(トールキンが当時そのような感覚があったこと自体は時代性今さら批判することではないと個人的には思っています)。PJ版の映画シリーズはまるでイギリスだけで物語が展開されているようなひたすら英国人役者にまっっ白な配役であり、それが日本人にとってはザ・ファンタジー的な世界でキラキラしている良さがあるのはわかりますが、むしろ世界観としては原作よりも世界を小さくしていた側面もあります。そこを正しい形で現代ナイズしてくれたのは一中つ国ファンとして感謝しかありませんでした。

・アダルは今シーズンのベストキャラの1人でしたね〜!オークがエルフが拷問され堕落した姿というのは原作でも(たしか)映画でも言及があり、文字通りオーク第一世代ゆえにアダル=尊父という存在を出したことは素晴らしかったです。また6話でのオークにも名前があるという視点も今までには全くないものでした。これはアダルは今後どう扱うのかな…?と思っていましたが、おそらくシーズン2はアダルvsサウロンになりそうですね。アダルーーーーー!

・シーズン全体の物語としては、何よりモルドールと3つの指輪のオリジンをこれほど上手く描いてくれるとは思っていませんでした…。本当に素晴らしかったです。特に指輪製造やサウロン判明はもっと後のシーズンになると思っていたのでシーズン1で一気にここまでやり切ったのは驚きでした。

・指輪製造に直接関わるエルフだけではなく(オリジナル設定でしたが)ミスリルのエピソードも入れることでドワーフ/カザムドゥーム/ヴァルログの紹介も兼ね、南方国の話でヌーメノールの紹介も兼ね、それら全てを本筋(サウロン出現と指輪製造)に直接関与させることに成功しています。そして唯一完全に独立したパートであるハーフットのパートでは(おそらくは)ガンダルフのオリジンも兼ねています。つまり、後の3つの指輪の所持者であるガラドリエル・エルロンド・ガンダルフのオリジンを描きつつ第三紀の主要要素であるヌーメノール/エルフ/ドワーフ/サウロン/モルドールの世界観をしっかりと構築したわけですね。並大抵のことではなかったように思います。改めて振り返れば振り返るほど凄い。本シリーズは全5シーズン構成であることが公言されていますが、シーズン1としてやるべきことを完璧に行なった構成力に脱帽です。

・全編を通して原作だけでなく映画へのリスペクトに溢れていたのが本当に楽しかったです。最後のエンディングもそうですが、台詞しかり様々なところで映画との接続やオマージュを感じられました。一方で映画では改変したり少し誇張しすぎていたように感じる原作要素を原作へ寄り戻したと感じる箇所も多々あり、そのバランス感覚が最高でした。力の指輪を観た後に映画シリーズを観ればより面白くなることは確実で、本当に素晴らしい前日譚となっていると思います。

・予習の必要性について。構成としては前日譚なので力の指輪から入っても問題はないと思いますが、やはり少なくとも映画を観ておいた方が面白いのは事実。ここは完全初見で力の指輪から入った視聴者の意見をいっぱい聞いてみたい。ただ一方で、申し訳ないけど指輪物語って聖書を除いて最も有名な小説の一つと言ってもよいくらい有名な作品ですしロードオブザリングもアカデミー賞総なめの名実ともに史上最強の映画の一つな上にご丁寧に同じアマプラで観れるので観ましょうとしかならないという問題があります(体育会系オタク)。そしていうて”予習”としてはホビットはほぼ関係ないしロードオブザリングも旅の仲間だけでほぼ必要な情報は履修できるので、つまり全人類ロードオブザリング旅の仲間を観よう!意地張ってないで素直に観ましょう。大丈夫。すっごい面白いよ。

・最終話の白装束3姉妹の勘違いについて。これはサウロンとよそびとの正体イスタリが中つ国の中で精霊的な存在であるマイアという区分に位置することからくる勘違いです。ロード・オブ・ザ・リングの世界は中つ国の歴史の中ではかなり後期という位置付けで、初期の世界には唯一神だったりその下の天使的な存在やサウロンやイスタリといった精霊的な存在ももっと普通に登場する世界でした。ただ力の指の頃にはそれらの超常的存在はほとんど中つ国から去った後の話なので、サウロンとイスタリくらいしかいません。ですからロード・オブ・ザ・リング映画勢にはガンダルフはどう見てもエルフ-ドワーフ-人間-ホビットと同階級の存在にしか見えないでしょうから、「間違えようがないだろ!」と見えるのです(ちなみにロードオブザリングお馴染みの便利キャラ大鷲もただ動物ではなくこの精霊並の存在です。あいつら、あの顔でなんならエルフよりも偉い存在なので全然便利キャラじゃありません)。つまり、我々人間にはわからない見た目云々のレベルではなく存在レベルの認識が異なるのでで勘違いしたわけですね。そういえば最終話でそもそも白装束も人間ではないことがわかりました。こればかりは仕方がないです。シルマリルを読んでない限り一切伝わらないネタでしょうから笑えます。

あまりにも期待していたドラマだったので、始まる前はどれくらいのものができるか心配でしたし(同じAmazon制作でありファンタジー作品であるホイールオブタイムを既に観ていたのでお世辞にも出来がものすごくよいとはいえずめちゃくちゃ心配でした)、1話が配信された直後は人種差別的な批判や読んでもないだろう輩からの原作無視の批判や安直なゲースロとの比較や謎の映画シリーズ上映時間と比較したテンポ批判など、正直に言ってめちゃくちゃしんどかったのですが、最終話まで観終わって本当に素晴らしいドラマを制作してくれてありがとう以外の気持ちが消えました。そしてだいぶ製作陣への信頼が担保されたのでシーズン2以降は安心して楽しみに待ちたいと思います。

観終わった勢いそのままに原作のシルマリルの物語と終わらざりし物語の原作史実をまとめ、ど長文の展開予想ポストを書いてしまいました。↓
https://note.com/santafe______/n/n1b08fcf4b89f
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