新木

First Love 初恋の新木のネタバレレビュー・内容・結末

First Love 初恋(2022年製作のドラマ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

初恋は淡く。過ぎし日の良き思い出として、部屋の片隅に捨てられずに大事に仕舞われている本のようなものなのかもと。

『FIRST LOVE 初恋』と題された、宇多田ヒカルデビューどんぴしゃ世代としては、主演の満島ひかりに期待するものの佐藤健かよ…と名作からまた余計な副産物が生まれるのかと思いつつもスルーはできないこのタイトルを冠した本作がとてつもなく良く(寒竹監督の作品などまったく観たことないし、過去作もピンとくるものはなかったのですが)。

特に本作を際立つものにしたのが、回想の組み込み方。まるで「THIS IS US」をお手本にしたような細かな描写を含めたエピソードの挿入が過去と現在をつなぎ、也英が喪失した記憶の輝きを一層引き立たせていて(ここは『エターナルサンシャイン』に近いのかな)。同じような感情はその人の死が描かれることによって感じることはよくあるのだが、その選択をせずにうまく展開できていたのは感動でした。ドラマの尺だからこそできるものですね。

そして、若き晴道を演じた木戸大聖がものすごく良く。彼の純真無垢な真っ直ぐさは誰しもが眩しく感じたのではないでしょうか。そして相手役の八木莉可子もお見事。これからどんどん磨かれていく原石を、今このタイミングに切り取って永遠にできただけでもNetflixは大きな役割を果たしたのではと思わずにもいられません。

そんな明るく真面目で若いふたりの将来はいとも簡単に崩れてしまい、現在の也英を演じる満島ひかりの職業は女性ドライバー。明らかな『ナイトオンザプラネット』オマージュ(しかも今年は伊藤沙莉もやっていた)だったし、部屋の壁にはもろに『タクシードライバー』。。満島ひかりのドライバーはとても適役でしたが(同僚の濱田岳を振る場面のセリフも素晴らしい)、彼女の快活さが存分に出ていたために学生時代とのギャップは感じ。でもそれは結婚出産離婚を経験したひとりの人間の強さなのかなとも。一方の晴道はといえば、先述したとおり、木戸大聖が良すぎたために、佐藤健はキムタクの二番煎じ感が拭えず。やることなすこと気障に映り、まっすぐさは残しつつもあのはじける笑顔やすこし抜けているところが引き継がれていない点が本作のいちばんのもったいないところかなと。演技の幅狭いんですかね。

それでもそれでも、本作はそんな細かなところ突っつく輩など置き去りにするほどの作品力があり。宇多田ヒカルの「FIRST LOVE」は1.25倍速で観ていた自分(とても良くないですね)をしっかりと巻き戻させ、1.00倍速でしっかりと観せるほどの魅力をいまだ持ち。その他の劇伴も心地よく、衣装はちょっとやりすぎくらいだったけどおしゃれで色の統一もしっかりしていました。

初恋は淡く。まわりにそういったふたりが結ばれた例などがあまりないこともあってなのか、お互いの社会環境が変わっていけば耐えられないほどの脆さを内包するものなのか。自分の初恋の終着点(もしくは続き)は気になるところではありますが、初恋が持つなにかに私たちは憧れ、成し得なかったあの人に想いをしばし馳せ、本作に出逢えたことを嬉しく思いながら、このふたりの明るい未来を祝福したいと思います。
新木

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