格闘技系スポ根の最後の砦にして聖地に踏み込んだ、究極の張り倒しドラマ。いっけん派手だが、伝統的な「守・破・離」をしっかりと抑えた良品。
- 聖域の無いドラマ
聖域・・・神聖な地域、犯してはならない区域。比喩的に、手を触れてはならない分野ー広辞苑(第七版)
国技をテーマにしているので、ともすれば制作陣が変に忖度し、変な”禅”的な意味付けをし、やはり落とし所はアンタッチャブルになるのかと最初は危惧したけど、最後までそれが無かった。
あけすけなほどの、いじめ、暴力、隠蔽、八百長、角界不祥事全部入りに加えて、家族崩壊、新興宗教。。。
とにかく聖域の無い展開は痛快。
- スポ根における守破離を踏んだ良作
主人公vsライバル
貧乏vs金持ち
地方の馬の骨vsサラブレッド(血筋)
わかりやすいキャラ設定のコントラスト。
まさにスポ根の定石。
といっても、昭和スポ根にありがちな変な技(消える魔球とか、地獄車とか)も無く、シコを踏むのが基本の基本という、極めてオーソドックスな地に足付いた稽古がベース。
主人公の猿桜(しこ名)の稽古部屋に貼られている「守・破・離」という言葉
「守」:最初はしっかり型を守る。要は基本を身につけるということ。
「破」:その基本がしっかりできてから、自分なりの工夫などを入れ込む。
「離」:そして、自分のオリジナリティの型を創り出す。
相撲に限らずスポーツ、芸事、仕事なんかにも通底する、あらゆる習い事の原理・原則。
「シコ踏んでどうするん?」
と、猿桜は自分にはセンスがあるので、シコなんか地味な稽古積まなくとも勝てると。
確かに最初は勝てるんだけど、やはり、一定のところから上に行こうとすると、行けない。
一定のレベルから上の相手には歯が立たない。
ビギナーズ・ラック的にちょこっと相撲の勝ちが進み、谷町(スポンサー)がついて、可愛い女の子とも付き合うようになって浮ついた主人公がライバルの静内との対決で大怪我をし、心身ともに谷底へ突き落とされ、張り手に怯えるようになる。
どうしたら克服できるのか?
自問自答してもわからない。
・・・「守破離」なんだ。
そこに気がついてからは、親方や兄弟子に真摯に教えを乞い、がむしゃらに稽古をするようになる。
部屋の連中も彼に影響を受け、部屋全体に良いスパイラルが生まれる。
しっかりとしたキャラ設定の対立軸、主人公を谷底からはいあがらせるシークエンス。
本作はスポ根における「守・破・離」をしっかりと踏んでいるから面白い。
- 肉体で成立する「沸(わ)く」ドラマ
主人公を演じた、一ノ瀬ワタル。
正直いうと、彼、演技下手(すまん)
セリフ回しもいけてない。(北九州門司の清滝にはああいうしゃべり方する知人いたけど笑)
だけども、彼の体作りは見事で、あの肉体がドラマを成立させている。
(普通、売れてる役者にはあそこまでの肉体改造は無理でしょう)
逆に上手い役者だと、あの独特なアホさが出ない。
ライバルのモンスター、静内(しこ名)にしてもそう。
とうとう最後までセリフ一切無し。
これはかつての北野武監督が手垢のついてない無名俳優を映画に起用し、作品に新鮮味を出した手法を彷彿とさせるもので、江口監督の狙いは成功したといえる。
猿桜と静内の最初の立ち会い、待ったなしで、静内がニヤっとする顔が、まあ怖いのなんの。
あれはMVP名場面(なんでニヤッとするかはドラマ後半で伏線回収あり)
いろんな想像ができる最終話のラストは上質で、シーズン2があったら絶対見るけど、無くてもいい。
とにかく8話通して「沸きに沸いた」ドラマだった。