ボブおじさん

サンクチュアリ -聖域-のボブおじさんのレビュー・感想・評価

サンクチュアリ -聖域-(2023年製作のドラマ)
4.4
かつてこれ程迄に肉体的説得力を持って、大相撲の世界を描いた映画やドラマがあっただろうか?

いや、そもそも国技と言われながら近年、大相撲の世界を物語の中心に据えた映画やドラマは、めっきり少なくなった。

その理由は、いくつかあろうが、最大の理由は力士特有の体型の役者を揃えることが、事実上不可能な為、企画の段階で俎上に載せられないからだろう。

過去にも相撲を題材としたドラマや映画は存在した。真っ先に思い浮かぶのは、周防正行監督の「シコふんじゃった。」だろうが、こちらは弱小大学相撲部を描いた作品だった為、力士役の学生は主演の本木雅弘を始めとして皆、普通の体格という設定だった。

だが、この作品の舞台は数あるスポーツや格闘技の中でもとりわけ巨漢が揃う大相撲の世界だ。この舞台をリアルに描くための役者を揃える方法は2つしかない。

本物の力士を揃えて演技には多少目をつぶるか、本物の役者を力士のように鍛え上げるかだ。そしてこのドラマは、後者を選んだ。厳密に言えば何人かの元力士もいるのだが、主役の一ノ瀬ワタルを始め台詞が多い役には本物の俳優が肉体改造をして挑んでいる為、ドラマとしても見応えがある。

言葉にするのは簡単だが、現実にはほとんど不可能と思える事をこのドラマはやってのけた。力士役の役者たちは、1年以上に渡るとてつもない肉体改造と相撲の稽古により、本物の力士になりきった。

ここまでの役作りは、映画も含めた日本のエンターテイメント史上、初めてのことではないか?とにかくその肉体と力士の所作は本物である‼︎

この土台があるからドラマの部分の荒唐無稽な演出が受け入れられる。監督は「ザ・ファブル」などアクション映画のセンスに優れた江口カン。

本物に引けを取らない、土俵でのぶつかり合いを迫力あるカメラワークで捉えており、重量級の男たちが本気で身体をぶつけ合う様は、ハリウッド映画にも引けを取らない。

染谷将太、忽那汐里、田口トモロヲ、余 貴美子、松尾スズキなど周りを固める実力派の役者たちがドラマ部分は任せておけとばかりに土俵の外を盛り上げる。中でもピエール瀧の本格復帰は個人的に嬉しかった。

本作はNetflixだからこそ作れた作品だと思う。日本の資本では各方面に忖度して、ここまで踏み込んで描くことは出来なかったであろう。伝統と格式を重んじる大相撲という文字通りの〝聖域〟に、果敢に攻め込んだ本作は、掛け値無しの大金星だ。


〈余談ですが〉
日本の映画やドラマに圧倒的に不足しているのが、アスリート並みの体格を備えた役者陣の層の厚さだ。

ハリウッドは別格としてもヨーロッパ、インド、韓国、中国など世界のどの国と比べても脆弱である。

映画やドラマでスポーツや格闘技を題材にすると主役クラスに必ず非現実的なヒョロヒョロとしたイケメンが登場して屈強な男達をなぎ倒す。

あるいはユニホームがユルユルの小さなケツの野球選手がホームランをかっ飛ばす。世界から見たら失笑を買うような映像を恥ずかしげもなく垂れ流す。もう何十年も続くこの現象に半分諦めモードの自分がいる😢

理由はわかっている。だがそこを打破しない限り日本のアクションは、小手先だけのアクロバットか、侍の殺陣しか無くなり、野球映画も芸能人の草野球大会に成り下がって世界から取り残されていく。出よ映画界の大谷翔平!

いつの日か千代の富士や室伏広治の様なフィジカルの役者がガチンコバトルするメイドインジャパンのアクション映画を観てみたい。

いつの日かユニホームがパツンパツンに張り詰めた役者を揃えた野球映画を観てみたい‼︎

以上、現場からのボヤキでした😅