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金の糸のmstashdのレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
4.0
昨年訪れたヴェネツィアビエンナーレで、ジョージア館を見た。ジャルディー二会場の華やかさから少し距離を置いた街角の古い建物の中、空虚な空間の中に漆黒のモノリスが鎮座していた。それは旧ソ連によって開発された、水力発電のダム開発のために沈められた街のチャペルの影を象ったオブジェであった。開発、つまりは発展の影を展示することで、発展に対する、国としてのアンチテーゼを世に宣言していた。そう、ジョージアは経済発展を拒絶したのだ。聞けば進行していたトルコによる水力発電プロジェクトをキャンセルしたとのこと。経済発展とは異なる豊かさを国として求める。そのマニフェストとしての展示だった。

これが僕のジョージアとの出会いだった。ジョージアの人たちのその姿勢に深く感銘を受けた。ジョージア文字も可愛らしく、グラフィックとして愛嬌がある。

ジョージアの首都トビリシでも建築ビエンナーレが開催される。行ってみたい。

そんな静かなる幸福を求め始めたジョージアの人々のささやかな生活を描いた作品。
美しい街で、パソコンも携帯電話もある。しかしそこには情報の海に流される刹那的な情景はない。
日本の金継ぎのように、過去の傷を金という高価値のものを用いて再構築する。それがテーマだ。過去を捨てて、一直線に未来へと向かう現代的発展と金継ぎは相反する。過去を捨てず、受け入れ、むしろ豊かにする。

グルジアの国としてのヴィジョンをこの作品も体現しているのではないだろうか。
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