荒野の狼

金の糸の荒野の狼のレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
5.0
お茶碗の底の部分を「糸尻(いとじり)」と云う事は知っていた。作り上げた陶磁器の底を、轆轤(ろくろ)から糸で切り離すからである。作品の誕生という事で言うなら、台座(母親)からヘソの緒が切り離された瞬間である。
better half(ベターハーフ)という言葉がある。良き配偶者の事を言う。
仏典から来た四字熟語の『不即不離』は、字の如く「付かず離れず」と言う意味である。
元は一個であったものが分裂した時、それらの関係はどうあるべきか。帰らぬ過去と現在に、どう折り合いをつけるのか。
日本の金継ぎは、西洋のいわゆる元に戻す修復や直す修繕とは違う。離れたもの同士を離れたまま継ぎ、ヒビ(にゅう)や欠損、破損は破損としてそこに新たな価値や関係を見いだす感性の技である。
「失われた時を求めて、なんて素敵な言葉なんでしょう」
「認知症、こんな素っ気ない名前よりアルツハイマーって呼び名の方がカッコいい」。この老齢な監督は、おそらく日本に「赤い糸」という表現があるのも知っていたに違いない。
「原理のない人生に価値はないわね」。
これもまた、若い時には気づかない真理である。

https://youtu.be/WfxTaMIythQ?si=Ri1K9FXX9B522zsU
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