しの

マッドゴッドのしののレビュー・感想・評価

マッドゴッド(2021年製作の映画)
3.6
偏執的なまでにディテールに凝った地獄巡りとして鮮烈すぎる。単に理解不能なのではなく、自分が認知し得ない社会の仕組みが確かに回っているのだろうなと推察できるディストピア描写が恐ろしくリアルだし、リアルすぎて嫌悪感すら覚えるが、ここに「創造主の怒り」を感じざるを得ない。単に悪趣味なグロキモ世界を提示しているだけなら露悪で終わりだが、そこに陥らず、確固たる信念……というか「怒り」が伝わってくるのだ。

読み方がよく分からん地図、何を作ってるのかよく分からん産業、原材料がよく分からん錬金術。しかし全て空虚な破壊と創造の円環を繋ぐシステムのようだ。退廃的に稼働し続ける産業や、文字通りクソのように扱われるシットマンなどは、ハリウッド産業、ひいては空虚な人類の生産活動のメタファーであるように思える。ショービジネスを揶揄するような場面は示唆的。本作が見世物であることに自覚的だからこそ、そこに風穴を開けようとするエネルギーを感じる。

それは表現手法にも見出すことができ、ストップモーション、人形劇、影絵、実写など様々な手法を使ってこの世界を決して他人事にはさせまいとするイメージの奔流を浴びる体験ができる。『JUNK HEAD』が生の実感を描くなら、こちらはひたすら生が退廃的。しかしどちらにもユーモアと愛しさがある。稀代の作家のシンクロ性も楽しんだ。
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