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めぐりあう時間たちのyuienのレビュー・感想・評価

めぐりあう時間たち(2002年製作の映画)
4.3
ときどき、生活という名の牢獄に収容された囚人だという感覚に襲われる。義務やら一般論やら概念でしか存在しない透明な拘束衣に、きつく雁字搦めに縛り付けられ、脱獄のすべも知らない。
自己を生きるって、痛みを伴うし、とんでもなく勇気のいること。いっそ肉体なんて不自由な外殻を棄てて、春のそよ風になれたらいいのにね。

わたし達は時間という大きな水の流れに決して逆らえず、万物に終焉は等しく訪れる。或いはそれゆえに、小鳥の亡骸の傍らにそっと横たわるウルフは、その光を失った穏やかな瞳の裏側にある 絶対的な静寂に深く惹きつけられ、見入っていたのかもしれない。

死には求心力がある。

だからこそ「静寂」を覆い被せる為に、ダロウェイ夫人は盛大なパーティを成功させようと張り切った。喧騒は少しの間、死の影を遠ざけられると錯覚できるから。

どんな楽しいときも笑顔のうしろに、冷淡な客観性が混在して、どうしても振り払うことができない。純粋なる生の喜びと言い知れぬ虚無感、ふたつの相反的な感情の波間で、帆のない船のように、常にあてどなく揺れている。幸福と絶望は双子の兄弟。

細胞の隅々までに寂しい群青色が染み渡って、いくら洗っても綺麗に洗い落とせないんじゃないかって思える夜もある。孤独は状態ではなく、性質なんだって、いつか誰かが言ってたなあ。

苦痛を誤魔化す為に笑い、粉々に壊れてしまわないように明るく振る舞う。そうやってバランスを保つことで、両足を地面にしっかりと繫ぎ止めようとする。今までも、これからも。
ダロウェイ夫人が、能動的に両の手で生を迎え入れようと、六月の麗らかなロンドンの中に飛び込んでいったように。
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