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スランバーランドのshihoのレビュー・感想・評価

スランバーランド(2022年製作の映画)
3.9
子供向けの様相を呈していながら、恐らく大人の方に効くストーリーだった。

私は夢の中に入り込む話が好きだ。有名どころならノーラン監督の「インセプション」、小説なら宮部みゆきの「ドリームバスター」、アニメ遊戯王にも夢の中の部屋をイジる敵が出てきたし、鬼滅の無限列車編も夢の中の描写が凄く良い。これらに共通するのは夢の世界はその人の深層心理を表すものだということ。

今作は最愛の父を亡くした11歳の女の子が、夢の中でいいから父に会いたくて、かつての父の相棒である夢の世界の無法者、フィリップ(ジェイソン・モモア)と共に何でもお願いを叶えてくれる幻の真珠を探しに危険な旅に出る物語だ。

夢の描写は綺麗で映像も凝っているし、主人公の女の子もモモアもわるくない。しかしいまいち惹かれないのはこの夢の世界には「毒」や「闇」が足りないからだと思う。途中旅する他人の夢のほとんどがキラキラした特に意味のない世界で、夢ならではの不気味さ・異常さ・そこから導き出される夢主の心理やメッセージを読み解く楽しさがあまりないからお金をかけた綺麗なシーンも薄っぺらくなってしまう。私個人の好みによるところが大きいかもしれないけど。奥行きが欲しいんだ、キラキラしているだけじゃダメなんだ。あと夢管理局とかの作りがなんか地味。敵キャラのデザインなんかもいまいちでもったいない。

相棒のブタのぬいぐるみピッグの動きはぬいぐるみと生き物の間って感じがちょうど良くて、現実⇄夢を分かりやすく表す指標にもなって良かった。ただペットというには主人公からの扱いがやや雑なのが気になった(磁石みたいに勝手についてくるに近い、便利なマスコット)。ぬいぐるみ=父との思い出=モラトリアムのシンボルとしてもっと大切に扱ってやってほしかった。

夢間の移動は様々なドアを潜らなければならないルールがあるのはとても良かった。私も夢サバイバーなので窓や扉が重要ポイントなのは大変共感出来る。行った道を通って戻るところも好きだった。持って寝た物がそのまま夢の中に出てくるのなんかも子供の頃読んだ冒険物語みたいでワクワクした。

主人公ニモの11歳という絶妙な年齢設定も合っていたし、亡くなった最愛のひとに会いたいという願いは私の涙腺を簡単にゆるゆるにした。ラスト20分くらいずっと泣いてた。何より良かったのは(前述した内容とやや矛盾するが)創作において現実逃避のセーフポイントやトラウマの顕出場所と、仄暗い場所になりがちな"夢"に対して、「現実の方が大事だからそっちを大切にしようね」だけじゃない心温まるポジティブな解釈があり、夢と現実のバランスが取れていたこと。

総評すると「結構良かったんだけどいまいちハネない」ってイメージではあったんだけど、親子で観たら子供は普通に楽しめて親はこっそり沁みる良作なんじゃないかなと思いました。観て良かった。

(個人的にはやや博打だけど、芸術的センスやディティールへの信頼感という点でティム・バートン監督で観たかったかもです。)
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