サマセット7

プレデター:ザ・プレイのサマセット7のレビュー・感想・評価

プレデター:ザ・プレイ(2022年製作の映画)
3.9
プレデターシリーズ5作品目(エイリアンvsプレデターシリーズも含めると7作品目)。
監督は「10クローバーフィールドレーン」やドラマ「ザ・ボーイズ」第一話のエピソード監督、ダン・トラクテンバーグ。
主演は「アイスロード」などのアンバー・ミッドサンダー。

[あらすじ]
18世紀初頭の北アメリカ大陸西部にて。
コマンチ族の女性戦士ナル(アンバー・ミッドサンダー)は、狩人として周囲から承認を得るべく、戦士たちのライオン狩りに同行する。
しかし、森には、すでに宇宙から訪れた異形の狩人が潜んでいた。
ナルは他に先駆けて異形の存在に気がつくが…。

[情報]
アメリカではHulu独占で、日本ではDisney+独占で2022年8月5日より配信開始された、配信オリジナル映画。

SFアクションホラー映画、1987年「プレデター」から始まる人気シリーズの最新作。
同シリーズは、宇宙から訪れた地球外生命体の狩人と地球の人々の戦いを描く、というもの。
仮面を被った人型、周囲に擬態して透明化すること、赤いポイントを照射して飛び道具の照準を合わせること、キチキチという発生音、狩りと戦いにこだわる独自の倫理観などが、第1作から通じたプレデターの特徴となる。

プレデターとは、捕食者の意味。
第一作同様、今作の劇中でこの呼称が使われることはない。
今作の原題である「prey」は、獲物の意味。
predetorと対になっていると思われる。
なお、製作時には、プレデターシリーズ作品であることを伏せて宣伝する案もあったらしい。

今作はシリーズ中最も舞台となる時代が早く、過去シリーズの前日譚の位置付けとなる。
ネイティブ・アメリカンでかつ女性の主人公、という点に、際立った独自性がある。

コマンチ族の描写にはかなりの力点が置かれている。
コマンチ語での全編吹替が収録された映画は、史上初、とのこと。
主演のアンバー・ミッドサンダーはネイティブ・アメリカンを先祖に持ち、その他もかなりそれらしいキャスティングがされている。

今作は、ジャンルの性質上、バイオレンスシーンや人体破壊描写を多く含む。
血塗れ上等な作品のため、苦手な人は注意を要する。

配信限定作品のため、製作費不明、劇場興収なし。
アメリカHuluでは、Hulu史上最高の初回視聴数を記録した。
今作は批評家から絶賛されており、特に海外の批評サイトでは、ジャンル作品としては異例の高い支持を受けている。
一般観客からの支持率は、洋邦問わずジャンルなり、といったところか。

[見どころ]
プレデターに求めていたのはこれだ!!!
プレデターとコマンチ族の戦士、それぞれの狩猟アクションがたっぷりと描かれる!!
お約束の光学迷彩!
プレデターvs野獣たち!!
ナル役アンバー・ミッドサンダーの全編通した魅力!!!動きのキレ!!
トマホーク捌き!!!
ジャンルものとしてはしっかりとした現代的なテーマ性!!
シンプルイズザベスト!!!

[感想]
楽しんだ!

第一作の「プレデター」は、ジャングルにおける謎の生命体とのゲリラ戦を描き、相手が正体不明であることにこそ、最大のスリルがあった。
第二作以降はネタが割れている結果、第一作以上のナニカを加えるのに苦労している感があった。

今作は、300年近く年代を巻き戻す、というアイデアで、第一作以来の新鮮さとスリルを取り戻すことに成功した、と言えると思う。

プレデターの相手は、これまで軍の特殊部隊、警察官やギャング、殺しのプロたち、退役軍人の受刑者など、一定の近代的な戦闘技術や武器を持った者たちだった。
しかし、今作では、時代が時代であるため、主人公が持つ武器は、弓矢とトマホークだ。
同時期のヨーロッパ人でようやくマスケット銃が扱えるくらい。
体格的には、第一作の身長188センチのシュワちゃん演じる筋骨隆々のダッチ少佐と比較して、今作の主人公ナルは身長166センチの細身の女性だ。
異星のハイ・テクノロジーを駆使し、身長2メートルを超えるプレデターとの戦力差は明らかだ。
この圧倒的な戦力差を、知恵と工夫と機転を活かして、どのように覆すか?という点に、今作の新鮮さとスリル、そして面白さがある。

今作では、コマンチ族の狩猟や医療、狩場を把握する様子、犬を伴う様子などが丁寧に描かれ、後の激しいバトルの伏線となっている。

ナルを演じるアンバー・ミッドサンダーは、それほど知られた女優ではないように思うが、今作で迫力あるアクションをこなし、キャラクターに魅力と説得力を与えている。
人間側の視点はほぼ彼女のみのものとなるだけに、このキャスティングの成功は大きい。
目力と、滑り、走る、跳ぶアクションはとてもカッコいい。

ストーリー的には、後述するテーマと絡んで、ナルの自己実現が、そのまま柔よく剛を制するカタルシスを生む、という構造になっている。
この構造は、シンプルだけにわかりやすく、上手い。

18世紀初頭のアメリカ西部の自然を描く映像の美しさも印象に残る。
空に光る宇宙船!!
草原の空撮!!
タイトルの印象的な出現!!
動物たちの躍動!!
一部暗闇のシーンが分かりにくい部分もあったが、私の視聴環境のせいと思われる。
劇場で観たかった映画だろう(劇場に行ったかと言われると分からないが)。

透明にカモフラージュしたプレデターが森の中、迫り来る描写など、プレデター関連演出は、いずれも「分かってるねー!!」感が深い。
熱を感知するセンサーや今作独自の仮面、多様な武器の数々など、お約束を踏襲しつつ、どれもこれもカッコいい。

100分と短く、サクッと見られるのもよい。
総じて、気楽に見られる良質なエンタメだったのではないか。

[テーマ考]
今作は、狩人として氏族から認められることを希求するが、現状は性別を理由に軽んじられている女性が、知恵と工夫と機転を駆使して、未知の圧倒的な強敵と戦い、自己実現を果たさんとする話である。
女性の所属社会との葛藤と自己実現、というテーマは、優れて現代的だ。

また、コマンチ族を主役に配したことで、マイノリティもまた等しく我々と同じ人間である、という、言わずもがななメッセージを感じる。
第三勢力の存在や扱いも、このメッセージを補強している。

テーマとストーリーの帰結が噛み合ったラストのカタルシスはなかなかのものだ。

[まとめ]
シリーズの舞台と主人公の属性を工夫することで新鮮さとスリルを取り戻し、上手にまとめたSFホラー・アクションの良作。

エンドクレジットからすると、続編もあり得そうだ。
海外のネットでは、舞台を戦国日本にして、プレデターvsヒロユキ・サナダ@サムライはどうだ!?というアイデアが話題になっていたらしい。いいね!!
今回のクオリティを維持できるなら、舞台と時代を変えた続編が出たら是非見てみたい。