るるびっち

ロザラインのるるびっちのレビュー・感想・評価

ロザライン(2022年製作の映画)
2.5
「今まで俺は、本当の美を知らなかった!」
ジュリエットを見初めた時に言う、ロミオの台詞だ。
実はパーティーに忍び込んだのは、別の女性ロザラインが目当てだった。
それまでロザラインのことを恋しくて泣いて暮らしていたロミオは、友達と「他にも美女はいる」「いや、あれほどの人はいない」と言い争う。
パーティーでもっと良い女がいないか、確認しようと忍び込む。
そこでジュリエットを見つけ、上記の失礼な台詞を吐くのだ。
ロザラインほどの美女はいないと言ってたのに、そりゃないだろう!!
これは残念ながら、本作の中には無い。
元々シェイクスピアの原作戯曲がそうなっているのだ。
ロミオの豹変の酷さは、元の戯曲の方が数倍面白い。
彼はその後、「ロザライン? そんな陳腐な名前忘れた」とさえ言い放つ。
ロミオって実はクズ男。知ってた?
嘘だと思ったら、戯曲読んでね。

作家の阿刀田高氏が、先にロザラインを好きなのは構成がおかしいと述べていた。
それは純愛物語だと誤解しているからだろう。
世間もそう誤解している。
戯曲の中で、修道士がちゃんと言っている。
「若者の恋の憩いの場は、胸ではなく目なのだ」
つまりハートより、見た目の上っ面で熱を上げているに過ぎない。
純愛物語ではなく、若者の愛がいかにせっかちで無軌道かを批判的に描いた作品だ。
現代では価値観が変わって、無軌道な青春を讃えるようになった。
二人は死んだお陰で、永遠の愛の話になった。
死んでなければ、ロミオはすぐに他の女に目移りしただろう。
そっちの方が悲劇だ。だからロミジュリは死んでハッピーエンド。
良く言えば『恋に生きる男』。
実際は『チャラいイタリアの種馬』である。
ジュリエットに一目惚れして、一秒も待たずに手を出す。
「恋の巡礼です」とチャラいことを言い、
「巡礼が手と手を合わせるように、唇と唇を合わせましょう」とキスする。詐欺師のやり口だ。
そしてその晩、彼女の家のバルコニーに不法侵入。
「どこからきたの?」と問うジュリエットに対し、
「恋の翼に乗って」とイカれた発言。
いや、不法侵入を問うているのだよ!

本作は『ブックスマート』の女優にロザラインをやらせた。
つまり頭は良いけどイケてない女子が、現代っ子感覚で古典を批判的に描いている作品だ。
そんな事より二人の死の真相に、実はロザラインが意外な関わり合い方をしていたという皮肉なプロットの方が数倍面白かっただろう。
ブックスマート的会話劇を活かそうとして、却ってプロットがゆるゆるでしょーもなくなった。
あの顛末はロザラインのせいだったのか! と、膝を打つ驚きがない。
少しだけあるが、そこもしょぼい。
もっと、アッと言わせて欲しい。
『忘れられた元カノ』というロザラインの立場的な面白さを、現代っ子にするという詰らない思い付きで台無しにした。
チャラいだけになり、悲劇を茶番にしてしまった。
台詞に関しては、原作の何分の一のきらめきもない。
だから粋な台詞もなく無粋。ワザとかな? 古典批判??
古典女性キャラであるジュリエットも現代的に変更してしまったので、現代的なロザラインとの差異があまり感じられない。
ジュリエットとのキャラの相違をもっと出すべきだった。
本作は、そこしか面白いとこないのだから・・・

多分、今後はロザラインの存在の面白さに気付いた作家が、もっと傑作を書くだろう。
とっくに私は気づいてたけどね~(ロミオがクズなのも)、ディズニー遅くない?
と自画自賛。
その一方で、もっと面白くできるのにな~。
と憤懣やるかたない。
るるびっち

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