ワンコ

スワン・ソングのワンコのレビュー・感想・評価

スワン・ソング(2021年製作の映画)
5.0
【エンパシー/人の苦悩や痛みを知る】

※ AppleTVオリジナル作品。

クオリティの高い示唆的なSF作品だと思う。

人を人たらしめているものとは、一体何なのか。

“スワン・ソング”とは、人が亡くなる直前に人生で最高の作品を残すこと、また、そうした作品を指し示す言葉だ。


(以下ネタバレ)

双子の兄弟を事故で亡くし、自分を責め、心を閉ざしたことがあるポピー。

死に直面し、これから苦悩するであろうポピーに想いを馳せるキャメロン。

自分の記憶を移植したクローンを残し、ポピーが苦悩せずにこれからも幸せに過ごせるようにと願う心は果たして間違っているのか。自分のエゴなのか。

葛藤し、ケイトとの交流を通して、決意を固めていくキャメロン。

キャメロンの苦悩と向き合う”もう一人のキャメロン”。

キャメロンの苦悩を理解し、更に、キャメロンの苦悩と向き合おうとするもう一人のキャメロン。

コンタクトレンズを通して、もう一人のキャメロンが、キャメロンに残した映像は、人の苦悩や痛みを知り、そこにエンパシーを感じだからこそなのではないのか。

仮に、もう一人のキャメロンの、キャメロンと過ごした時間の記憶が消えてなくなったとしても、こうしたエンパシーを得る力は、きっと、記憶とは異なる、もう一人のキャメロンのもっと心の奥深いところに残るのではないのか。

そして、これは人間がもともと備えている、人を人たらしめている最も大切な能力ではないのか。

もしかしたら、これこそが人類のスワン・ソングなのではないのか。

今、僕たちが忘れかけているかもしれないもの。

この作品では、もう一人のキャメロン自体をスワン・ソングと考えがちだと思う。

また、クローンと記憶の移植という、一義的にはモラリティを考えさせられる部分もある。

しかし、実は、人を人たらしめているものは一体何なのか、そこにたどり着けたことこそスワン・ソングなのではないのかという踏み込んだテーマを根底に残す秀作だと思う。

観る側のリテラシーが試されるとても示唆に富んだ作品だ。
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