keith中村

INTERCEPTOR/インターセプターのkeith中村のレビュー・感想・評価

5.0
 映画史上膨大に作られた「ダイ・ハード」型映画の最新作にして、傑作。
 あくまで、このジャンルとしての「傑作」なので、来年には細部を忘れているであろう自分を十分自覚しているが、それでもこの瞬間の高揚感を持って満点を献上したい。
 
 この種のジャンル・ムービーに小生が期待することをすべて満たしている作品である。
 
 まず礼賛したいのはそのユーモア感覚である。
 「どれくらいかかる?」「60分です!」「30分でやれ!」
 この何百回見たかというクリシェを本作では、2基目のバーナーを視認した主人公の(関西の芸人諸氏が言う)「一人ツッコミ」として変奏している。
 もう好きになるのである。大好きになったのである。
 
 笑えるポイントとして最大級なのは、クライマックスに描かれる「全米の命運を掛けたSASUKE」。
 ここで大笑できるのは、「SASUKE」を知っている日本人の観客の特権としてありがたく享受いたした。
 
 「毛ガニ氏」であったり、「漁師の長野氏」であったり、私とファーストネームが同じ「山田某」であったり(今調べたら氏は小生の同郷でもあった)、そういった人(ソルジャア)たちの人生を輝かせ、また破綻もさせたTBSのあの長寿スペシャル。
 実は本作は、その「オーストラリア特別篇」だったのである。
 数多の屈強たる猛者が健全なる両腕をしても朽ちていった、かの雲梯!
 それにたった片腕で挑み、優勝したのがエルサ・パタキーなのであった。
 
 SASUKE本編にも登場する雲梯の「ちょっと心が挫ける長さの間隔」。
 SASUKEだと、そこへ飛び移る踏ん切りがつかぬため、体力恢復をせんとしてだらんとぶら下がっている内に、逆に握力を消耗しつくして堕ちてしまう挑戦者が続出した例の「ながぁい間隔」。
 今回のオーストラリア大会では、その間隔が我々が既視してきたものどころではない、尋常ならざる距離となっている。
 しかしエルサはまったく躊躇わず、自らの体躯を振り子のように振って、跳躍する。しかもそれがスロオモオシヨンという映画技法にて躍動感を伴って描かれる。
 
 映画芸術において、"Reap of Faith"は数限りなく描かれ続けてきた、映画の持つ機能のひとつで、形而上的かつ普遍的に我々に訴えかけてくるエモオシヨナルなモオメントのひとつである。
 一般的に"Reap of Faith"というものは信仰する神もしくは信頼するパートナーを頼りにおいてのみ実行される行為である。
 ところが本作では、「己自身を頼みに」"Reap of Faith"が実行され、かつ遂行される(もちろん、それは本作に通底する、主人公の父が説いた"Never Stop Fighting"がテーマになっているわけではあるが)。
 斯様に昂揚する瞬間の映画がほかにあったであろうか。
 「そのような描写は物理法則に大いに反しているではないか」と、破顔大笑・拍手喝采しながら、同時に心の裡においては感動のあまり滂沱の涙すら流してしまったではないか。
 
 本作の主人公を演じたエルサ・パタキーはMCUで「雷様」を演じたクリス・ヘムズワースの細君だと後で知った。
 今年、我々はMCUにおいて久しぶりに劇中でヘムズワースのパートナーだったナタリー・ポートマン嬢に拝謁することができ、かつあの作品で「全知全能の雷様」と化したナタリー嬢に涙したものであったわけだが、MCUならぬGJU(現実ユニヴァース)でヘムズワースのパートナーであるエルサ・パタキーも、やはり全知全能だと感じることが出来る本作は、傑作というほかはないのであった。
(そういえばMCUでも生存率を百分率で説く場面があったかと記憶している。その数値は記憶してはいないが、本作では「14パアセント」とされていた。MCUよりはずっと高い数値ではあるが、現実世界において、それは無に等しいではないか!
 
 嗚呼! 小生は本作に感動しすぎて、かつ例によって小生の悪癖であるところの「焼酎を喇叭呑みしながら徒に書き散らかす」という行為をしているがため、最早自身でも何を書いているのやら、脈絡があるやらないやらすら判然としなくなってきた。
 
 よって、本日もそろそろ筆を措こうと考えるところではあるが、第三幕における「対立構造の解消」で描かれた潜水艦浮上シーンでの、「これは、よもや『眼下の敵』オマージュになるか? なるか? おお、なった~!」も、はやり小生が泣き笑いになった事項の一つとして書き添えておきたい次第である。
 
 残るは、「ブレットトレイン」のブラピかと思っていたカメオが主役の夫であるクリヘムだった件、かつ氏が製作総指揮としてクレジットされていたという気づき、そして、我が邦でも残念なコインシデンスとして女性自衛官へのハラスメントが報道されている件があるが、それらを書き尽くすにはもう時間がない。

 とはいえ、日本一のジュディ・ガーランド研究家としては、本作にcome out, come out. wherever you are があったことだけは前後不覚に酩酊する前に書き添えておきたいのであった。