ネノメタル

犬ころたちの唄のネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

犬ころたちの唄(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【1st impression】
世代も、人生も、人生観も、音楽に対するアティチュードもバラバラだが飲みっぷりと3人揃った時の音合わせのチューニングだけはバッチリで妙に素晴らしいアンサンブルを披露する中年3兄弟。彼らは普段からそんなに仲良くはないが、年に一回行われる彼らの父親の法事だけはこだわりを持ってやっててちょうどそれが今年33回忌。
 そんなある日異母兄弟の娘、つまり彼らにとっての義理の妹が現れてこんな事を言うのだ。
「私も法事に参加したいです。」
...という普通ありそうな感じの穏やかなトーンの話だが突如飛び出す衝撃の事実に驚愕したり、それほど仲良くないこの3兄弟における感情ズレから生じる暴発ぶりに爆笑したりと本当不思議な感触の映画だった。
特にこの兄弟は深夜兄弟という広島県で独立した3人の歌手により結成されたいわゆるバンド、なんだけど中でも長男であるミカカ氏の酔いの演技が迫真すぎてスクリーンからまるで日本酒の香りがしてくるような感覚を覚えた(ってかほんとに飲んでたのかな?とか思ってたけど実際飲んでないらしい事が判明)

いや〜でもこうして文字で書いてるけど、これほど面白さを理屈やロジックで語るのに困難な作品はなくてめちゃ五感に訴える作品でもあると思う。多分3回ぐらい観ときたいくらい色んなものが詰まっている作品だと思う。
あの古本屋の店主が謎にカッコよく映ってるシーンや、冷蔵庫に貼ってある某PCブランドのシールや、質屋独白シーンのどシリアスな筈だけどコントっぷり等【ツボったもの勝ち】な説明不可能な面白さにも満ちている。

【2nd impression】
そして2回目、この世界に埋もれてしまいたいくらい楽しめた。
登場人物の誰もが複雑な事情を抱えてて貴方もそうでしょ?と振ってくるがそれ以上は干渉しないぶっきらぼうな優しさが本作にはあるのだ。
そういえば古本屋の看板に
【Nothing is true. Everything is permitted.】
という1950年代のビートジェネレーションの作家、ウィリアム・バロウズの名言が書いてあるのに気づく。
犬ころたちの唄 は正にそんなそれぞれが色んな登場人物に感情移入したりあれこれ自分の人生に当てはめたりとする自由な解釈が許される作品だと思う。
そう、何故あそこまで尺を使って次男がカレーを食うシーンが存在するのか、古本屋店主は深夜兄弟の演奏は物静かに聞く癖にダブサウンドに取り憑かれたようにノってしまうのか。
めちゃくちゃヘヴィな身の上話の後笑みを浮かべる居酒屋女将..『犬ころたちの唄』はポスタービジュアルだけでは推し測れない独特の魅力に満ちている。

で、また偶然の一致だけど最近多くの音楽を土台とした映画が公開されているが、
『犬ころたちの唄』の深夜兄弟、『辻占恋慕』の月見ゆべし、『ディスコーズハイ 』のカサノシタとブルース・ロック・フォークとジャンルはバラバラだけど夜や雨を示唆する(バンド)名なんだな。
 いずれも太陽光を閉ざされたコロナ禍から光を見出そうとする潜在意識の現れだったりして。
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