シズヲ

ONE PIECE FILM REDのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

ONE PIECE FILM RED(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

シャンクスの娘にしてルフィの幼馴染ウタ!!なんだこいつ!?エースといいサボといい、ルフィの身内は急に出現しがちなので毎度ビビらされてばかりである。そしてそんな風に突然出てきたウタの存在感が終始に渡って映画を跋扈するので、良くも悪くもぶったまげる。ウタは相当にスケールのでかい目的を持ったボスキャラ兼ヒロイン兼主役だったけど、思えば近年のワンピ映画は毎度新世界レベルに相応しい敵役を排出しているので凄い。今回はリモートライブや仮想空間など、題材もタイムリーだ。

本作は紛うことなきウタのための映画。映像も演出も脚本もとにかくウタを立たせてるし、主役も悪役も大体ウタが引き受けてる。そのうえで原作における最重要キャラ=赤髪海賊団の活躍にフォーカスを当て、更にウタのテーマ性と世界観の核心的要素を肉薄させることで『ワンピース』としてのバランスを保っている印象。映画の印象の半分くらいはウタの歌唱シーンが持っていくけど、Adoはんは普通に歌が上手いしド派手なMV風演出も絵的に楽しいので何やかんや引き込まれる。歌唱と能力が演出に組み込まれたウタウタの実(そのまんまの名前だ)のビジュアルは楽しくて良い。あと今回は歌唱がメインなだけあってか、作中キャラのファッションも音楽系カルチャーからの引用だったのが好き(ウソップがKISS風のメイクをしてたり、ジンベエがエルヴィス・プレスリー風の衣装を纏っていたり)。

冒頭から“海賊の加害性”に焦点を当て、“大海賊時代は海賊達の自由の裏側で多くの民間人が虐げられている”という部分に突っ込んだのが印象的。ウタの目的も言ってしまえば“大海賊時代の否定”なので相当大胆に切り込んでいる。ルフィも過去作で「海賊はヒーローじゃねえぞ」と言ってたけど、この辺りは原作者的にも自覚的な部分なのだろうなぁ。とはいえルフィやシャンクスがその辺りに対して明確なスタンスを示す訳でもなくて、基本的にはウタ個人との対峙に終始している。ここは原作で今後掘り下げる部分なのかもしれないし、特典で改めて文脈が示されているとはいえ、単体の作品としては消化不良感が否めなかった。ウタが掲げる“新時代=アンチ大海賊時代”に対する見解をもうちょっと見たかったし、そのへんに伴って今回のルフィはちょっと切れ味が足りなかった(ラストの“宣言”が“幕引きの決意”としての答えではあるんだろうけど)。“ウタはシャンクスの実の娘ではなかった”という部分もそりゃそうだろって感じなので、そんなに衝撃的に見せる場面ではない気がする。

そんなこんな言いつつも“赤髪海賊団のまともな戦闘シーンがある”という一点で相当のインパクトを伴っている。原作だと20年以上まともな戦闘シーンが無かったシャンクスとかがめっちゃ戦うのですごい。“ルフィとシャンクスを再会させずに擬似的な共闘を描く”というアイデアは中々に面白くて(ウソップヤソップの親子擬似共闘もニクい)、前作のスタンピードでは出てこなかったカタクリなどの活躍があるのも良いけど、個人的には初期からのキャラであるコビーに一定以上の見せ場があったことが嬉しい。戦闘シーンは多人数乱戦や異空間演出に加えて、ダイナミックなカメラワークとカットの切り替わり連発で大分ごちゃついてる感はあったけどね。そしてウタが幾らゴン攻めしてもルフィやシャンクスは彼女を直接殴れない(+庇護へと向かう)関係にいるので、幾らかフラストレーションを感じる部分はあった。それによってルフィの戦闘面での派手な活躍も終盤まで中々見れないので、ちともどかしさがある。

前述の通りウタはまさしく本作のボスキャラ兼ヒロイン兼主役であり、正直ちょっとそわそわするレベルの存在感だったけど、ラストの結末で作劇的な筋を通したので味わい深い。ウタがああして物語から退場したこと、ある意味でメタ的なケジメめいてる。
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