春とヒコーキ土岡哲朗

ONE PIECE FILM REDの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

ONE PIECE FILM RED(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

25周年、ルフィの夢の意味を問う。

カリスマ歌手ウタを映画一瞬で作り上げる。25年やっている漫画で、映画一回きりのキャラクターが大きな存在感を放たなければいけない。そこへの力の注ぎように圧倒された。Adoの歌、楽曲、映像。ルフィの幼馴染・シャンクスの娘という特別な設定もそれを成立させるスタートダッシュ。モブ観客たちの「うぉー!」がめちゃめちゃ大きくて、ウタがカリスマである説得力がある。これは映画館の音響で圧倒される必要がある。

壮大な無理心中。ウタは、大海賊時代に震える市民の味方となり、皆を新時代に連れて行くと言って、背負って活動する。しかし、その真意は、皆を苦しみのない幻想世界に閉じ込めること。それを事前に言わない辺り、ウタ自身も全員が納得はしないのは分かっている。見え方はほとんど無理心中。
なぜ彼女は、心中を選んだのか。現実の世界に希望を見出せなかったのだろう。シャンクスに裏切られて置き去りにされたという失望と恨み、終盤で発覚するが、自分が島を滅ぼして大勢死なせた罪悪感。現実をコントロールするのが不可能だと感じ、自分の能力で新時代を展開しようとしたらそうなった。現実逃避でやっていた計画だったが、ルフィとシャンクスがとことんまで自分と向き合ってくれたことで、素直な本音を刺激される。本当は、自分の罪悪感と正面から向き合い、それを支えてくれる人がいればよかった。暴走してしまったけど最後にそれが叶ったから、彼女も考えを改め、みんなを助けるために歌った。

完結に向かうワンピースの歩み。原作が最終章に入るタイミングで、ルフィのモチベーションを解き明かす重要な話だった。まず、ルフィがずっと「海賊には音楽家が必要」と言っていた理由が、幼少期に赤髪海賊団の音楽家を名乗るウタと出会っていたからだと判明。そして映画の後半では暴走したウタに海賊王になる理由を問われ、「新時代を作るためだ」と答える。原作でまだルフィのモチベーションは冒険心しか語られてこなかったが、自分が王になることで世界の悪い部分を変える思いがあることが分かった。
ラストシーン、ウタの死を感じ取ったルフィが「海賊王に、おれはなる!」と言って映画が終わる。今まで元気な言葉として聞いてきたこのセリフだが、ウタの死を受けて意味が加わった。ウタは、世界の悪い部分をなくすために自分なりに動いたが、加害者になり、最後は死んでしまった。その原因である「世界の悪さ」を取り払うため、絶対に自分こそ新時代を作らなければいけない。自分が目指した夢に、責任を課した一言。ここから、原作の見え方も変わる。