Ryoma

渇水のRyomaのレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
4.3
生田斗真さん、山崎七海さん、柚穂さんらの演技が圧巻。生田さん演じる市役所職員である岩切の、仕事や規律に従った行動をとるのか、それとも、自分の心の声に従いルールに縛られない選択をするのか、人として大切なことは何かと悩み葛藤する心情がひしひしと伝わってきた。無垢で天真爛漫な妹、子どもながらに気を遣い甘えられない姉、そんな2人の演技も秀逸で心動かされた。
会話の間が比較的長い作品故に、彼らの表情の移り変わりの機微や、それに伴って変わる声のトーンの高低差などの秀逸さがより伝わってきた。
水や水分が枯れてなくなるという意味の“枯渇“。蝉の鳴き声や照りに照った太陽、ゆらゆらと漂う陽炎などで、日照りやその枯渇の状況が演出として上手く表現されていた。エレキギターの少し気怠そうな乾いたような音がそれをまたうまく助長させてもいた。
本作のメッセージとして、まず、親のネグレクトへの警鐘を感じた。どの親も我が子に対して愛情を持っていると思いたいが現実はそうではなく、数々の報道でも見受けられるように、身勝手な親もいる訳で…
劣悪な家庭環境や自己中心的な近隣住民、上司の顔色を窺い規律にただ従うだけの役所の人たちなど、荒んだ“渇いた心“を持った大人の自分勝手な言動によって、何の罪もない子どもたちが非行に走ったり、餓死したり、本来心配するべきではない衣食住のことに気を遣ったりするのは本当にあってはならないことだと強く感じた。
メッセージの2つ目として、『わたしは、ダニエルブレイク』や『護られなかった者たちへ』にも通ずる、社会保護制度などのセイフティー網から漏れてしまった人たちの生き辛さやそれを看過してしまっている社会への警鐘を強く感じた。
ルールは秩序を保ち私たちが安全に暮らしていくために原則守られなければならないものだけれども、それが必ずしも100%正解ではなく、時として、その規律では計れないことが世の中にはあり、その場合においては、人として大切なことは何かを考え行動することの大切さを感じた。
岩切が姉妹のためにとった行動は世間から見れば決して褒められたものではないとしてもありったけの愛と思いやりに溢れてた。コロナ禍でより希薄になった人と人の繋がりやそれに伴って変化しつつある時代の趨勢によって、他人に対して余計なお節介たるものは以前に比べれば少なくなったように感じるけれども、同時に、コロナ禍を経て、人と人との繋がりの尊さも実感したことで、より人を想うためにとる行動の意義や大切さを感じることができた気もする。
様々な作品に携わってきた白石和彌氏が企画・プロデュースに入っていることで、ヒューマンドラマにおいてより深みや奥行きが出て、それぞれの登場人物の葛藤や思いが浮き彫りになっていたことや、普段彼が撮る作品はバイオレンスものやサイコスリラーのようなジャンルが多い気がするが、それが本作では、ヒューマンドラマに焦点が当てられていたことで少し新鮮さがあったこと、同時に、ヒューマンドラマの中では、強烈に不器用な人物が必死に生きていく様を描いた『凪待ち』など生き辛い世の中を描いた作品もあり、そういう面では、凄い説得力というか納得の作品にも感じた。本作の原作は、当時、芥川賞にノミネートされたらしい。出版当時(1990年)から30年以上経った現代においても、本作で提起されている社会問題が一向に改善に向かっていないのは世の末か。
大人に対してなんの期待もしなくなった、頼ることを諦めた姉妹の虚ろな目が脳裏に焼き付いて離れない。
一面の向日葵畑🌻や水が綺麗な滝のロケーションは圧巻の明媚な景観で、いつか行ってみたいなと思った。

余談
数年前にやっていたドラマ『俺の話は長い』では、饒舌で世間や社会に対して色々物申したいと言わんばかりの強気の姿勢にみえた生田さんだが、本作では、硬派な職に就きながらも、水のように流されるがままに世間をやり過ごし日々を淡々と過ごしてしまっている多くは語らない寡黙な男性をうまく演じきっておられて、純粋に凄いなと思った。
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