Jun潤

渇水のJun潤のレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
3.8
2023.06.03

白石和彌企画・プロデュース×生田斗真主演×磯村勇斗×尾野真千子。
水道料金も払えないほどの貧困家庭に対する、無慈悲ではあるものの仕事として、社会として当然の停水措置。
そんな人間と社会の関わりを白石和彌が他の監督に描かせるなんて、えげつねぇことしなさる。

酷暑と水不足が続く群馬県前橋市。
そこの水道局員として働く岩切は、水道料金の滞納世帯に対して停水の措置を日々執り行っていた。
滞納者の一人、小出有希は二人の娘がいながら、日々男との出会いに繰り出し、子育てはほとんど放棄していた。
有希の娘の恵子と久美子の目の前で停水を執行する岩切。
岩切は、停水を執行される人々や恵子ら姉妹たちと、別居中の自身の妻子に繋がりを感じ、日々に変化が生じていく。

これは、、良い、良い邦画だ。
作中でも人生を水に例えていたように、枯れ切っていた岩切の人生が変わっていく様を抒情詩的に描きながら、恵子ら姉妹を中心にして描く、貧困家庭に対する停水措置を軸にした社会派ドラマ。
恵子と久美子が二人だけでどこか牧歌的に、どこか破滅的に描いているような様は、『火垂るの墓』のような、『となりのトトロ』のような……。

作中で言及されていたように、水は誰かのものなのだろうか。
太陽を浴びる、呼吸をするのに料金がかからないように、電気は発電所で作っているから料金が発生しているように、自然から発生している水に対して何故料金が発生しているのか。
化学反応的なもので生み出しているならまだしも、作品の舞台が水不足で給水制限がかかっている年だからこそ、尚更そのように思えてしまう。
しかしそんな疑問や社会背景があるからこそ、岩切の心が枯れている様子が如実に描かれていたんだと思います。

何度水道料金支払いの督促を送っても頑なに払わない人がいる中で、親やパートナーの愛情というか同情のようなもので支払われる人がいて、そうした人との関わりの中で岩切は改めて妻子に向き合おうとする。
しかし親の愛情を知らずに育ち、親としての愛情の注ぎ方もわからず、妻も自分から離れていってしまった。
水が流れるように淡々と仕事をしてきた岩切の流れを変えたのは皮肉にも、自分の手で停水措置を執行した恵子ら姉妹の存在だった。
水が止めどなく流れ続けているように、人々の営みや人生や、家族の愛情の継承も、流れを止めてはならなかった。
岩切の人生には確かな希望が見え、姉妹の人生には少々の苦みを感じながらも、流れが絶えないことを予感させてくれる、良い終わり方でした。
Jun潤

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