ねこねここねこ

渇水のねこねここねこのネタバレレビュー・内容・結末

渇水(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ライフライン、最後まで繋げておいてくれるのは水道。その水道代を払わない人達に督促して回り、どうしても支払わない場合は停水する水道局の職員岩切(生田斗真)とその後輩(磯村勇斗)
水道代を支払わない人達にも色々で、どうしても支払えない人やお金がなくはないのに支払わない人。どっちかというと実は後者の方が多いのかもしれない。給食費踏み倒してそれなりの家に住んでる家族とかと同じ。
でも少ない年金の中から細々と貯めたヘソクリを差し出す妻がいたり、場合によってはそういう人の水道も停めなきゃならないって、心をどこか涸らしてないと出来ない仕事なのではないだろうか。

その仕事の中でどうやら売春で生活費を稼いでるっぽい母親(門脇麦)と二人の娘の家庭にも督促に回る。父親はどこかに出て行ってしまったらしい。お金もカツカツなのかもしれないが、この母親は頑張れば水道代くらい払えるのに払わない。生活保護を勧める岩切に「親に知られるのとか無理」とそれも拒否。中卒でまともな仕事なんかないとまともに働くこともしない。
小学生高学年くらいの姉が低学年くらいの妹さんを世話している。
停水を二人の娘のために1週間遅らせたがとうとう停水する。停水前に後輩とともに家のあちこちに水を汲み置きしてやる岩切。停水後も母親は戻って来ず、街であった男との恋愛を優先して自分だけ男と旅行?
そんな姉妹に近所のおばさんは好奇の目で近寄って「児相に連絡してあげようか?お母さんが男の人と一緒にいるのを見たよ。お父さんもヤバいことしてたから戻って来ないよね」と余計なことを言ってきたり。
いやいや、児相に連絡とか本人達に言わずに黙ってしてやれよ。親のことも言わなくていいし、おかずの一品、おやつの一つでも持って行くならまだしも、姉が怒ると自分に感謝しようとしないことに腹を立てて掌返し。ホントこういうおばさんってリアルにもいるよね。

雨が降らず日照り続きでいよいよ給水制限となり、近くの公園の水も汲むことができない。僅かに母親からもらっていた数千円のお金も底をつき、万引を繰り返す姉。まぁそうしないと死ぬからなんだけど、それでも万引は良くないよ。

一方岩切のプライベートでは妻(尾野真知子)が息子を連れて実家に帰ってしまっている。親子水いらずの生活のはずなのに一人で孤独そうにしている岩切に耐えられなくなって家を出たのだろう。
妻子に会いに行き、いないと寂しいという岩切に「三人でいてもいつも寂しそうな顔してたじゃない」と言う妻。
妻の孤独感がすごく表現されていると思う。隣でいるのに自分は何の支えにもなっていない存在に思えて耐えられなかったんだろうなぁ。一人の孤独は耐えられても二人の(この場合三人の)孤独は耐えられない。
海に行こうと言う岩切の提案もやんわり却下され、一人孤独に帰路に着く岩切。途中で車から降りて行って見た滝の風景は涸れた自分をより感じたのかもしれない。

姉妹とは敢えて距離を取ろうとしていた岩切だが、後輩とお弁当でも買うためか立ち寄ったスーパーで万引きしている姉を見て衝動的とも言える行動に出る。
お金を渡そうとしても振り払われ、大人は全員大嫌いと叫ぶ姉を連れて「変えなきゃ」と公園の水道栓を開けてホースで水を撒き散らす。
んー、このシーンは小さい頃毎年のように夏になると水不足になり給水制限される地方都市に住んでいた私としては、おーい!😱となってしまった。貴重な水をそんな風に…って。
それでも岩切の無謀なこの行動でこの姉妹の心は救われたのだと思う。この件がなければ姉妹は、少なくとも姉の方は大人に対する不信感しかなく、心を閉ざして生きていったと思うから。

そして岩切は警察に。上司から退職金は全額出るから退職しろと言われる岩切。流れ着いた水道局の仕事は失うことになったがなぜか表情はスッキリしている。
職場にこの町を出て施設に入る姉妹から岩切の職場に金魚と手紙届けられている。

冒頭、水のないプールでシンクロごっこをする姉妹は、施設に行く日、水を湛えたプールに二人で飛び込む。
岩切の📱には息子から海に行きたいという連絡が入る。

まぁハッピーエンドだったね。
てっきり私は停水したことで姉妹が脱水で死亡していまい、やりきれない感情を持て余すのかと思っていたから良かったかな。

渇水、色々な人の心が潤いをなくし、渇いている。岩切もまた渇いてなければこの仕事をやることは出来なかったんだろうと思う。後輩からの言葉は一度は自分も悩んだことなんだろうなと思う。でも潤いは求めず渇いた心で機械的に自分の任務を遂行する、そういう生活がいつの間にか家庭内も渇いた孤独なものにしていったのだろう。
姉妹と会ったことで、渇いた、いや敢えて渇いた振りをしていた心が、本当はとても潤いを求めていたことに気づき、暴挙ともとれる行動に至ったのだろう。

心が渇きそうな、あるいは渇いた人はたくさんいるのだろう。潤すのは思いやりや愛情なのだろうけど、この母親みたいに相手のうわべだけの安っぽい愛にすがる人間もまた多いのかな。

生田斗真が良い演技してたし、疲れたその辺の中年に差し掛かった男性感がすごかった。脇を固める磯村勇人も良かった。