お婆さんと女子高校生がBL漫画を通じて友情を育むヒューマン・ドラマ。実際にはここまでの年齢差だと、同じものを同じ温度で好きになるのは難しいのでしょうが、趣味を介して思いもよらない相手と繋がる事ってあるよなとホッコリしましたし、うららさんの成長にはホロリと来ました。
彼女が漫画を描きはじめるシーンでは、あまりにもゼロスタートすぎてハラハラするあまり、藤子不二雄『まんが道』やハウツー本くらい読んだらどうだと叫びたくなりました。
でも、漫画が好きで漫画家を目指す人たちは、みんな初めはあんな風に手探りなのでしょうね。絵やストーリーが嫌になるくらい下手くそだと思っても、まずは自分の手で最後まで作りあげること。そこからしか「まんが道」も始まらないのだなと思いました。
他人の作品を享受するだけでは本当の意味で満たされなかったというあたり、うららさんはもともと表現するべき人だったと思います。優しくて純粋な雪さんのおかげで、好きな漫画への想いを安心して口にできたのも、彼女にとって表現の第一歩でした。創造の自由と喜びを味わうには、そうやって何らかの形で表に出すこと、作ることしかありません。
ただし、一度でも作る喜びに目覚めた人は、苦しくても作り続けるしかないという意味では、孤独に悩めるコメダ先生は、うららさんの未来の姿であるとも言えます。
そして、ファンの人たちや同人誌即売会のような場所が、そんな悩める表現者に力を与える構造もしっかり描かれていて、中々深いなと思いました。創造性を高めるには友好的なクリエイター参加型コミュニティが有効であるとモノの本で読んだことがあります。雪さんの純度100%の「好き」がうららさんを動かしたように、好きだという純粋な気持ちこそ創造性の源泉です。逆にいえば、ギスギスしてたりマウンティング合戦が常態化しているようなコミュニティでは創造性は死んでしまいます。
というわけで、漫画に限らず表現活動に勤しむ人たちには色々としみるお話なのではないかと思います。
ただし1点、監督俳優含めて誰1人BL好きじゃなさそうなのはどうにかしてほしい。
とはいえ、ものづくりの楽しさや世代を越えた女同士の連帯感などは心地よく、なかなかいい映画だと思います。原作も読みたくなりました。