『近道のない道行き』
ハケンアニメって聞いて皆さんはどんな映画を思い起こすだろう?
労働環境の悪いアニメの制作現場で、派遣労働者の如く、低賃金で身を粉にして働くアニメーターたちの群像劇? コメディ?
そういう人はまずはあらすじを素直に見ておくべきだ。
同日同時刻に放送される事になったアニメの新番組二本、それぞれのスタッフたちの姿を描く、極めて真面目なドラマだった。
一本は天才という呼ばれた監督の復帰作、もう一本は抜擢された新人女性監督の初監督作品。それぞれの不安を抱えて制作は進んでいく。
そのクールの『覇権』を取る努力と苦悩の物語。
コメディ要素は一切無し。
真摯にもの作りを描くところに好感を持った。
私はなかなかに中途半端なアニメ制作の知識のある反可通なので、観ながら「あれって放送開始の何ヵ月前の話?」とか「絵コンテの用紙、使わないんだ」とか「絵コンテ切る時にあるはずのストップウォッチないなあ」とか「こういった変更って放送開始のどれくらい前まで可能なの?」とか疑問が湧いて湧いて仕方なかったのだが、そこは『映画的嘘』と『観る側の忖度』で乗りきった。
何せ二つのアニメが覇権を争う、という話なので、ものすごい出来に見えるような二つのアニメを実際に目に見えるようにしなければならないという難題があって、本編ではそのアニメがちゃんと(ある程度)作られていて、しかもそれがちゃんと面白そうなの(個人的には「サバク」は全部ちゃんと観たい)。
ここをおざなりにせず、ちゃんと画面で見せたのは本当に偉いと思う。
そういった作品の誠実な真摯な作りこみがとてもいいと思った。
役者陣は吉岡、中村の主演二人はもちろん良かったが、なんといっても両作品についたプロデューサー役、柄本祐と尾野真千子が恐ろしいまでの儲け役。
逆に言うと監督とプロデューサーがあまりにたちすぎていて、総合芸術、集団作業としてのアニメ制作者たちの姿は少し目立たなかったかな。
とにかく吉岡里帆主演作はとりあえず観とけ、と再確認した一作。
それにしても最近の声優さんはかわいいんだねぇ。地の声までかわいいんでびっくりしましたよ。
劇場にて。2022.05.25
2022#005