Hiroki

ハケンアニメ!のHirokiのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.2
最初は全然ノーマークだったんですけど本当に周りの評判が凄くて、信用している方々も絶賛の嵐だったので観てきました!

5/20に公開になった今作ですが初週でTOP10入りならず。現状5週目で1.8億と興収的にはかなり厳しい。
それもあってか公開1ヶ月で上映館数が激減。
この規模の作品としてはかなり苦しい展開になってしまいました。

原作は辻村深月の人気小説。
これ原作は8年前に出版されていて、かなり早い段階から映画化の話が動いていたみたいなのですが実際映画化まで7年の歳月がかかったようです。
その大きな要因は劇中アニメを制作できるスタジオがなかったから。
劇中アニメとはいえその世界観やキャラクターデザインを踏まえて企画するには普通に12話分のアニメを作るのと変わらない労力が必要。しかもそれが2本分...
日本のアニメスタジオはどこも数年先までスケジュールがいっぱいなので簡単に「はいそうですか」とはいかない。
しかしこれは原作者の辻村深月が知り合いのアニメ監督である八鍬さんに相談した所「自分だったら初回と最終回のプロット、あとは何が起こるのかわかる全12話分の構成案は欲しい。」と言われた事を受けて、2つのアニメ『リデル』と『サバク』の全話分のプロットを書き上げた事によってクリアされた。
とてつもない熱意。
ここまで原作者が実写化に関わっている事も珍しい。
私は原作は読んでいないのだが、劇中の素晴らしい台詞も脚本家の政池洋佑が原作の台詞が心に刺さりすぎて、なるべく一文字も変えないように脚本にしたとの事。

内容的には覇権アニメ(そのクールで最も売れた、話題になったアニメ作品。最近はあまり使われないらしい...)を目指す新人アニメ監督と天才だが暫く現場を離れていて復帰作となる監督2人を取り巻く人々の群像劇。
まず気になるかなーと思うのが「アニメ詳しくないと楽しめないでしょ?」という疑問。
たしかに過去のアニメ作品へのオマージュぎっしりで、セリフやシーンなどアニメ好きならニヤニヤのオンパレードです。
ただ別にアニメや業界に詳しくなくても大丈夫。
物語の本質的には“仕事をする中で誰もが感じる葛藤や苦悩を克服して自分自身に誇りを持って成長していく主人公”という所だと思うので全く問題ないです。
ちなみに劇中でアニメの制作過程が出てきますが、アニメ業界の人の話によると実際とは違いフィクションの部分も多いみたいです。どちらかと言うと映像業界に近い。

いやーこれ難しいのもわかる。
構造上、劇中アニメの位置付けが中途半端で劇中アニメをダイジェスト(ダイジェストにすらなってないか...)的にしかやれない中でそのアニメを“素晴らしいモノ”として描かないといけない難儀さ。(実際はProduction I.Gが作ってるのとか凄すぎますけどね。)
そしてラスト(とポストクレジット)の結末は意見が分かれる所だとも思う。
でも、それでもこの映画は素晴らしい。
そう断言できる。
理由はこの作品の持つ“熱量”。
中盤くらいからもー泣きそうなのを堪えるの大変だったんですけど、ずっと熱量と熱量のぶつかり合いを描き続ける。
最初はみんながすれ違っているように見えるんですよ。
斎藤監督(吉岡里帆)と行城プロデューサー(柄本佑)。
王子監督(中村倫也)と有科プロデューサー(尾野真知子)。
斎藤監督と声優の群野葵 (高野麻里佳)。
そして斎藤や王子とそれぞれのスタッフも。
みんながすれ違っている。
それが中盤くらいからバチバチにぶつかり合います。
作品をとにかく良くしたいという想い。
新人監督に羽ばたいて欲しいという想い。
自分が業界に入るキッカケになった人と働きたいという想い。
実力がない事はわかっていてもなんとか力になりたいという想い。
あらゆる想いが放出されてバッチバチにぶつかりあう。
そしてその想いはやっぱり相手に届くんですよ。
本当に真正面から手加減しないでぶつかり合ってるからその想いはちゃんと伝わるんですよね。
それをね、中盤からはずっと描いています。
こーなるとアニメ業界の話なんだけどスポ根モノであり、青春モノです。
逆にいうとここにノれないと厳しいのかなー。

あとはやっぱりチームなんですよねアニメ制作は。それこそ小説なら基本は1人で書けるけど、アニメはそーはいかない。
どんな天才が1人いてもアニメは作れないんです。(堀貴秀みたいな規格外な人は別として。)
最近Netflixでシーズン2が公開になった『攻殻機動隊SAC_2045』というシリーズがあるんですけど、これ昔は2Dのシリーズだったのをこの1つ前からモーションキャプチャを使用したフル3DCGアニメーションにしてるんですよね。
監督の神山健治が語るその理由が「昔のスタッフが集まれないため手書きアニメでは再現ができない。」から。
それくらいアニメーションというのはあらゆる分野ののプロフェッショナルが集まって、ひとつの作品を作り出している。
そーいうチームとしての力、そしてそれを統率する監督の成長という要素が、わかりやすく且つ叙情的に描かれています。
この他人の集まりが徐々にチームになっていく物語も、王道なんだけど心が揺さぶられた。

キャストも軒並み良かったです。
何気に一見本筋と関係ないような並澤(小野花梨)と宗森(工藤阿須加)のエピソードが良かった!小野花梨が良い!
そして劇中アニメの方にも梶裕貴やら花澤香菜やら堀江由衣やら超豪華声優が声を当てているのでそちらも注目です。

「描く事の壁は描く事でしか超えられない。」
は庵野プロフェッショナルとか映像研とかtick, tick... BOOM! とか色々なものが思い起こされたなー。

いやーしかしこの映画が数字(興収)が振るわずに劇場数が激減しているというのが最大の皮肉ですよね。
この映画が売れないなんて日本のエンタメはもー本当に終わりなんじゃないですか?
劇場数は少なくなってしまってますが、まだ上映している所はあるので少しでも気になった方はぜひ劇場に!
私的には現状で今年のNo.1かもしれない勢いです。

2022-52
Hiroki

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