近本光司

冬薔薇の近本光司のレビュー・感想・評価

冬薔薇(2022年製作の映画)
3.5
舞台となった港町が横浜から遠くない場所に位置していることは窺い知れる。しかしその場所を安易に特定できるような情報は徹底して画面から排除されていた。ひょっとして作家は土地をめぐる観念の抽象度を下げないように注意を払っていたのではないか。それは脚本も同様である。安易な結節点をつくらず、淡々と、しかし映画的に物語は推移していく。家族の会話はずっとどこか噛み合っていないようでいて、何らかの重要なものごとが交換されている。四人の老齢の船乗りたちの離散はひじょうにスマートに綴られる。この絶妙な感覚、絶妙な手つき。近年の阪本順治の仕事にはプロフェッショナリズムを感じる。