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コバルトブルーのくりふのレビュー・感想・評価

コバルトブルー(2021年製作の映画)
3.0
【間借りと間男、心借りと心狩り】

Netflixの新作、珍しきインドのゲイ・ムービー。何となく後回しにしていたが、何となく予想した通り、素っ気ない後味でした。

主にマラーティー語映画の人、サチン・クンダルカル監督が若い頃に書いた、自作小説を映画化したもの。監督本人もゲイを公言しているが、これが実体験に基づくかは不明らしい。

1996年のケーララ州が舞台。まだ同性愛が犯罪と見られた時代ですが、その割にはけっこう、あっけらかんと愛し合っちゃったりして…インドだから大らかってことでオケ?

が、ゲイと自覚しているらしき文学青年の主人公が、どうにもペラく惹き込まれない。

家はブラーフマンらしく裕福な一方、バレたら大変だろうに、自分の性的指向で悩む様子もない。書こうとすることには拘り、いかにも学生らしい日々を過ごしているが…。

…で、小さな嵐が起こるものの、見ているコチラまで、ダメージが響かない。

時代からしても、恋人を見つけるのは難しいのでしょうが、本作では、向こうからやって来る…タナボタから始まる恋なんですね。あまり貴重さ、切なさ、等が伝わってこなくて。

彼の相手役もイケメン風だがそればかり。人物に惹かれないし、謎を知りたくもならない。

一方、彼ら二人を取り巻く人物のほうが、魅力的だし興味深かった。

姉は、ナゼ尼僧なんかに成った…させられたのか?本人も鬱屈していたが、知りたくなる。

大学教授はスカシた文化人的装いだが、本音を吐き出せばナルホド…と頷いてしまう。かつて英国に押しつけられた決まりに、未だインドは返答できぬままだ…との言い分には、それが正確かはわからないが、共感してしまう。

いちばん惹かれたのは、ボーイッシュな妹(実は姉?)。まっすぐな性格、押しのけたい抑圧、果たしたい若き目標。それぞれわかりやすく、応援したくなる。顔立ちもスナオ。

主人公との歪なバランスを思えば、彼女を中心とした方がこの物語はずっと面白く、掘り甲斐あるものに化けた気がします。

全体に詩、小説、絵画、写真…と各種の表現行為をアクセの如く盛っているが、表層的に感じてしまう。一番引っかかるのは、鍵色をコバルトブルーとしたワケを明かさぬこと。

赤系統のヒンズーカラーの中では、コバルトは異質に引き立ちますが、そこまで。その先を掘り下げようとしないことが、本作を象徴しているようにも思うのですが。

ロケーションは良かったです。風景、情景はふつうに見応えありました。

<2022.11.27記>
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