ベビーパウダー山崎

トラララのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

トラララ(2021年製作の映画)
4.0
屋外上映がダメになり渋谷スカイ46階の「廊下」で見る『トラララ』。椅子など端から足りずに立ち見でわんさか。ラリユー兄弟の短いビデオメッセージが流れてスペシャルゲストのマチュー・アマルリックの登場。スマホ片手に沸く観客、興味津々で街頭テレビに集まる昭和な大衆の気持ちがようやくわかった。
浮浪者が見ている夢、おとぎ話のような展開でもリアリティをきっちり持たせるのがラリユー兄弟の凄さ。死んだ兄に勘違いされ歓迎されるマチュー・アマルリック、戸惑いながらも歌とギターで乗り切る様は喜劇的だが、どこか纏わりつく「不穏さ」がとても良い。うまくいきすぎな終盤、己の居場所はここではないと悟るのも「音楽」、変人が変人なりに自分の心の傷を晒して(告白して)しっかりとケジメをつけるのが素晴らしい。そのあとのベルトラン・べランの歌も真っ直ぐでグッとくる。
場違いなアルマリックの存在がみなを笑顔にさせ集団の関係性をより強固にしていく。ふらりと現れ、ひとりで去っていくアルマリック、つまりこれは「男はつらいよ、ふうてんのトラララ」。流離う浮浪者、ラストは小舟で海に揺られての『素晴らしき放浪者』。情けないのに図々しい長髪ヒゲモジャ乞食ルックのアマルリックに武田鉄矢、渋い弟役は宇崎竜童でリメイク化。ドニ・ラヴァン!の立ち位置も絶妙、今年ベストにしたいぐらい胸に響いた。