サマセット7

ダイ・ハードのサマセット7のレビュー・感想・評価

ダイ・ハード(1988年製作の映画)
4.7
監督は「プレデター」「ダイハード3」のジョン・マクティアナン。
主演はシリーズ通じて、「シックスセンス」「アルマゲドン」のブルース・ウィリス。

[あらすじ]
ニューヨークの刑事ジョン・マクレーン(ブルース)は、クリスマスに別居中の妻ホリーとの仲直りを期して、ロサンゼルスの妻の職場を訪れる。
超高層ビル「ナカトミプラザ」のパーティー会場でホリーと対面するも、直前までの気持ちと裏腹に口論になってしまう。
意気消沈したその時、高層ビルはハンス・グルーバー(アラン・リックマン)率いる武装集団に占拠されてしまう!
外部との連絡を断絶され、孤島と化した高層ビルで、「世界で最も不運な男」マクレーンの孤独な戦いが始まる!!

[情報]
先頃俳優業引退を表明したブルース・ウィリスの出世作にして代表作。
いくつかの面で革新性があり、後に多数のフォロワーを生んだ作品である。

80年代は、シュワちゃんやスタローンが猛威を振るい、アクション映画は筋肉ムキムキの超人が主役を務める大味なもの、ストーリーなどあってなきが如し、という固定観念に支配されていた。
そんな中、今作は、中肉中背の「普通の中年オヤジ」ブルース・ウィリスを主役に起用。
高層ビルという限定された空間をフルに活かしつつ、緻密な脚本に意を用いて、アクション映画に新風を吹き込んだ。

もともとシュワちゃんやスタローンなどのスター俳優に出演を断られ、苦肉の策としてブルース・ウィリスを起用した。
当時の彼は、テレビドラマで活躍していたものの、映画出演は一作のみ。
ブルース・ウィリス以外のキャストも、映画出演は初めてかあっても無名、という面々で、ヒットは疑問視されていた。
しかし、フタを開けてみると、3000万ドルほどの製作費で、1億4000万ドルの大ヒットとなった。
ブルース・ウィリスをスター俳優に仲間入りさせ、アラン・リックマン(後のハリー・ポッターのスネイプ先生)の名を世界に知らしめた。

今作は、公開直後こそ賛否両論だったものの、現在では、史上最高のアクション映画の一つと評価されている。
批評家、一般層共に熱く支持されている作品である。

ジャンルはアクション映画。
刑事もの、シチュエーション・スリラー、夫婦の関係修復もの、バディムービー、コンゲームなどの要素をも含む。

タイトルの意味は「なかなか死なない」あるいは「最後まで頑張る」か。

[見どころ]
今でもなかなか他に類例が見つからない、ブルース・ウィリスの汗と血で汚れた「普通のオジサン」というヒーロー像。
名優アラン・リックマンによる、狡知、瀟酒、そして冷酷な、魅力溢れるヴィラン像。
外界と閉ざされた超高層ビルという、舞台設定の発明。
敵も味方も印象に残るサブキャラクターたち。
まさしく、全編息つく間もないスリルとサスペンスの連打。
高低差、エレベーター、ダクト、テーブル、ガラスなど、ビルのギミックを最大限に活かしたアクションの目を見張る面白さ。
芳醇なエピソードの積み重ねと複数の伏線回収を両立させる、秀逸な脚本。
テロリストと過ごすクリスマスの一晩、という、極限状態の中に通底する祝祭感。

[感想]
ブルース・ウィリス引退の報を聞き、何度目かの鑑賞。
相変わらず、最高です。

今作の基本は、ザマァ!!!!だ。
超調子に乗って、勝ち誇ってるヤツを、「普通」のオジサンが、バシッとセリフを決めつつやっつける!!
あるいは、調子に乗ったアイツやコイツが、無様に大失敗してやっつけられる!!!
このザマァの爽快感、スッキリ感が、今作の魅力の大元である。

そこに、ダメだったヤツが、窮地に立つことで、一皮剥け、成長するというカタルシスが加わる。
シュワちゃんやトム、キアヌだとこうはいかない。
ブルース・ウィリスのしょぼくれたオッサン刑事マクレーンだからこそ、ヒイヒイいいながら、汗まみれで足を引きずって戦う姿に胸を打たれるのだ。

そしてアラン・リックマン。
登場時から、静かなスピーチに至る、只者でなさ!!
スーツの着こなし!
複数のアクセントを使いこなす知的な振る舞い!
そして冷然と銃をぶっ放す、酷薄さ!
マクレーンとグルーバーの頭脳戦の、手に汗握ることと言ったら!!!
映画史上最高の悪役を決めるのは難しいが、今作のグルーバーも候補の1人になりそうだ。

実はテロリストの他の面々も結構個性的でいい味を出している。
アクションが美しい実動部隊の長、カール。
セリフが面白いハッカー、テオ。
銃を構えつつ、手癖の悪さを見せるユーリなどなど。

対する警察もなかなかだ。
マクレーンと無線越しの友情を築くパウエル巡査部長は例外として、それ以外のヤツらが悉く、マクレーンの邪魔をする存在として機能するあたり、面白い。
彼らはザマァの宝庫だ。

アクションの仕掛けも多様だが、中でもビルの高低差を活かしたものが見応えがある。
ホースを巻きつけた落下シーンは、アクション映画の歴史に残るスタントシーンだろう。

ラストのスッキリ感と祝祭感は格別。
伏線の回収も見事。
大・満・足!!!!!の映画体験だ。

[テーマ考]
素直な見方は、旧来型マッチョ・ダメ親父の成長譚、だろうか。
キャリアを築く妻を苦々しく思っていた昔ながらのオジサンが、危機にあって、自分の過ちに気付く。
そして、苦しくても、愚痴りながらも頑張り抜くことで、妻との関係を取り戻す。
実に共感できるテーマだ。

他の見方もできる。
例えば、日系企業のビルが、ドイツ系テロリストに占拠され、アメリカ人刑事が窮地を救う、という図式を、当時の国際社会に見立てるのも面白い。
外国に圧されるアメリカの復権!

日本企業、ハイテクビル、ハッカーを擁する現代的強盗、キャリアを築く妻、マスメディアなどなど、当時としては先進的なものの中で、西部劇を引用し、汗に塗れる労働者的なマクレーンの姿は、何かを象徴しているように思えてならない。
未知の将来に不安を抱える全ての人へ、あなたはそれでいい、そのままでいい、と力強く背中を押す。
そんなメッセージが込められているのかもしれない。

[まとめ]
ブルース・ウィリスの代表作にして、いつ見ても色褪せることなく面白い、アクション映画の傑作。
シリーズは5作を数え、独自の魅力は徐々に薄れていったが、2作目、3作目あたりは十分面白かった。
残念ながらブルース・ウィリスは引退を表明したが、彼の作品は残り続ける。