てっぺい

百花のてっぺいのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
3.5
【百花繚乱映画】
“半分の花火が見たい”認知症の母の言葉の真意が明かされる優しいラスト。脚本や映像表現も巧みで、主演二人の熱演が心に響く。映画としての力が百花繚乱に咲き乱れる一本。

◆トリビア
〇原田美枝子は『女優 原田ヒサ子』という、認知症を患った自身の母と向き合った短編ドキュメンタリー映画を監督している。(https://cinemarche.net/interview/hyakka-kawamuragenki/)
○原田美枝子は、湖での撮影が8時間にも及び体力が限界で、故人が見える“向こうの世界に行く”感覚を味わった。(https://moviewalker.jp/news/article/1101503/)
○泉が携わる音楽プロジェクトのヴァーチャルアーティストKOEが現実世界でもデビューする。(https://moviewalker.jp/news/article/1094096/)
〇映画のラストシーンは原作とは違う。(https://cinemarche.net/interview/hyakka-kawamuragenki/)
○菅田将暉はクランクイン初日、監督の言うことを全然聞かなかった。(https://mdpr.jp/news/detail/3335813)
○撮影時は、菅田将暉の祖母も認知症になり、自身も結婚というタイミングで、泉と同じ気持ちを感じていた。(https://moviewalker.jp/news/article/1101503/)
○ 泉が母の日記を見つけ、涙し嘔吐する7分間のシーンは、最多の25テイクに及んだ。(https://hochi.news/articles/20220907-OHT1T51207.html)
○本作がほぼ1シーン1カットの長回しで撮影されたのは、実人生にカットがかからない事を表現するため。(https://eiga.com/news/20211202/2/)
○原作は、監督の祖母が認知症を患った経験をもとに書かれており、“魚釣り”の話はその実体験。(https://eiga.com/news/20211202/2/)
〇百合子のピアノを際立たせるため、本作に劇半は使用されていない。(https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00497/090100003/?P=3)

◆関連作品
○「女優 原田ヒサ子」('19)
原田美枝子が自ら制作・撮影・編集・監督をつとめ、認知症を患った実母を撮った24分の短編ドキュメンタリー映画。Netflix配信中。
〇「世界から猫が消えたなら」(’15)
監督の川村元気の小説家デビュー作。猫好きならおすすめのファンタジーヒューマンドラマ。プライムビデオ配信中。
〇「長いお別れ」(’19)
本作同様、認知症をテーマにした邦画。「湯を沸かすほどの熱い愛」中野量太による涙腺崩壊する1本。U-NEXT配信中。

◆評価(2022年9月9日時点)
Filmarks:★×3.7
Yahoo!映画:★×3.4
映画.com:★×3.1

◆概要
【原作・監督】
川村元気(プロデューサー、脚本家、小説家で、本作で長編映画監督デビュー)
【出演】
菅田将暉、原田美枝子、長澤まさみ、北村有起哉、岡山天音、河合優実、長塚圭史、板谷由夏、神野三鈴、永瀬正敏
【公開】2022年9月9日
【上映時間】104分

◆ストーリー
レコード会社に勤める青年・葛西泉と、ピアノ教室を営む母・百合子。過去に百合子が起こしたある事件により、親子の間には埋まらない溝があった。ある日、百合子が認知症を発症する。記憶が失われていくスピードは徐々に加速し、泉の妻・香織の名前さえも分からなくなってしまう。それでも泉は、これまでの親子の時間を取り戻すかのように献身的に母を支え続ける。そんなある日、泉は百合子の部屋で1冊のノートを発見する。そこには、泉が決して忘れることのできない事件の真相がつづられていた。


◆以下ネタバレ


◆半分の花火
百合子が何度も口にした“半分の花火”の真意が分かるラスト。半分の花火とは、愛する息子と軒下で見た大切な花火であり、いつも一輪挿しだった葛西家の花の訳は、百合子が息子からもらった一輪花をいつまでも忘れないため。忘れられない捨てられた過去と、自分の事すら忘れていく母、そんな泉の心のわだかまりが一気に消えて、むしろ圧倒的な愛に包まれた泉が流した涙が美しかった。

◆映像表現
ピアノの演奏から、帰宅した自分、そしてまたピアノへと、“百合子の視点”でその症状が描かれる冒頭は、ピアノの旋律が崩れる辺りがとてもリアル。スーパーでのループや、浅葉の幻想と、その病の進行が不可避に思えてくる映像表現に引き込まれた。

◆対
少しずつ記憶をなくしていく百合子と、絶対になくせない記憶がある泉。前述の通り、それでも決してなくさなかった記憶がある百合子とそれを忘れていた泉という大きな意味での“対”も描かれていた本作。“忘れた方が人間らしいのかな”の台詞が印象的だったボーカロイドも、いくつもの記憶を搭載した、百合子と記憶の面で対なもの。同時にそれは無機質なもので人間らしさに欠け、泉にとっても母との対にあった存在として描かれていたと思う。

◆俳優
自身の認知症の母の映画も製作するほど、認知症に向き合ってきた原田美枝子。撮影前に母を亡くしたそうで、彼女の本作にかける意気込みも相当なものだったと思う。あの世に行く感覚を味わったというほどのあの湖のシーンは、はじめて息子すら忘れる重要なシーンであり、そう思えば演じる彼女の心の痛みも大きかったはず。涙と嘔吐を同じカットで出し切った菅田将暉も素晴らしかったし、彼自身の祖母も認知症というのだから、本作へ向き合い方も特別だったはず。認知症が他人事ではない俳優陣による、本気の熱演がビンビンに伝わってくる一本でした。

引用元
https://eiga.com/movie/96247/
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/百花_(小説)
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