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百花のmasaakiのレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
4.5
2022 09 13

まず冒頭10分くらいで「1シーン1カット」であることに気づき、「これはこのままだと後半飽きるのでは?」と思ったが全く杞憂だった。というのも、親子はぼーっと流れる日常を生きているし、母親の視点に関して言えば、現実と過去と妄想がシームレスに繋がっていく様子もキャプチャーできるからだ。役者に演技をさせる余白も十分に残されている。

泉(菅田将暉演)の視点と彼のトラウマとも言える過去が唐突且つ断片的に差し込まれることで、終盤で本人の口から語られる「忘れられない過去」が脳裏に焼き付いている様子も我々は体験でき、説得力を増している。

類似作の『ファーザー』は、認知症の父親が見ている世界をミステリアスに、なんならホラーに描いており、その演出だけでゴリ押しした映画である点が、個人的には少し飽きを感じてしまった。それに比べて今作では飽きは来なかった。

「親は子の前だとしてもいつでも誠実で正しくいられるわけではない」(不倫という関係性を一概に否定しているわけではない)というテーゼに関して、マギー・ジレンホールの『ロスト・ドーター』とサスペンスの構成的にも似てるなと。まぁだからどうしたってことでもないんだけど。

主演3人の演技が良すぎて、それだけでも観る価値は十分にあっただろう。菅田将暉は私の最フェイバリット日本役者になりました。長澤まさみはずっと苦手意識があったが、私が苦手だったのは「大衆映画/ドラマ向けの演技をしている長澤まさみ」だったようだ。今作では良い意味で癖のない役柄を見事に演じ切っていた。

ちょっと惜しかった点:母(原田美枝子)の過去についての第2幕(とでも呼ぼう)がなぜか間延びしてしまったように感じた…?序盤の菅田将暉が良すぎて彼にしか興味がなくなっていたからなのか、描写に現実味がなかったからなのか、理由はわからないけれど。でも重要な幕だし、もちろん悪くはない。
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