くまちゃん

百花のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

百花(2022年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

川村元気は自身の体験と当事者たちからの綿密な取材を通して小説「百花」を書き上げた。彼の作品は以前にも映像化されている。「世界から猫が消えたなら」「億男」どちらも主演は佐藤健をむかえメガホンはそれぞれ永井聡、大友啓史に託された。川村元気はプロデューサーであり作家であり映画監督ではないからだ。
2020年、アンソニー・ホプキンス主演の「ファーザー」が世界で絶賛された。認知症を独特の視点で描いた作品である。
原作はフローリアン・ゼレールの戯曲で監督もゼレール本人が務めている。
川村元気も「百花」にて初監督を務める。認知症という社会に密に関わる題材に対する理解は両監督とも比肩出来ないほどだが、だからこそ思い入れも人一倍強く、監督を他者に任せたくなかったのだろう。

北村有起哉、岡山天音、河合優実がかなり限定的な使われ方をしていたため、勿体なく感じた。
ただ、三者三葉顔もハッキリ映らないにも関わらず個人を特定できる存在感がある。

百合子が認知症と診断されたあと、泉が薬を一週間分分けたり、同じものがいくつも冷蔵庫からでてきたり、忘れないよう自分で書いたメモが大量にでてきたりと、細かな描写が一つ一つリアリティに富み、経験者なら共感できるだろう。

忘れゆく母、思い出す息子の対比も設定自体はユニーク。しかし半分の花火の正体は退屈極まりない。「半分の花火」という文学的表現の上に真相を当てたかのような浅さを感じる。

原田美枝子の若かりし頃はメイクなのかグラフィックなのかわからないが、肌が異常に白く、シワも消され、不自然さは否めない。
しかし、若かりし頃と現在を巧みに演じきり、認知症患者のもつ不安定さを正確に表現していた原田美枝子の技術には脱帽する。

菅田将暉と長澤まさみの落ち着いた演技が、泉と百合子の母子関係に強い説得力と違和感を持たせている。
普通ではない母子。他人よりは近く、家族よりは遠い微妙な違和感。

全体的に美しかったが、美しすぎる印象がある。菅田将暉の涙一つとっても美しい。逆に言えば綺麗すぎる。
ヒューマンドラマならもっとドロドロしたダーティな部分を描いても良かったのではと思う。
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