青空息子

夜の鳩の青空息子のレビュー・感想・評価

夜の鳩(1937年製作の映画)
5.0
竹久千恵子演じるおきよはかつてその美貌から浅草の小料理屋の看板娘として莫大な人気を得ていたが、その人気に翳りが見えてきた25歳の頃のお話。
公開されたのは1937年(昭和12年)、時代のせいだろうか当時もかなりの不景気だったらしいが、画面から感じられる世相、空気感はかなり現代に近いように感じられた。少なくとも高度経済成長期に撮られた日本映画より余程スッと映画の中に入っていけた。
原題は「一の酉」というらしいが、何度か印象的に挿入される夜の仲見世通りを幸せを求めて熊手を買って歩く人の波のロングショットがより当時の世相を際立たせる。

一緒に働くおしげの身の上もなかなか不幸だ。
義理の父親は金のためにおきよを妾に出そうとするし、実の母親も僅かばかりのお小遣いで機嫌をとって娘を妾にする話に加担しようとするわ、最後にはろくでなしの旦那のために娘に金の無心に来て「今夜中に50円(現代では3〜4万円位?)工面できないと私もここにいられなくなる」と脅す始末。
いつの時代もいるんですね、こんな毒親が!
おしげの態度から金の無心はこれが初めてじゃないとはっきり分かる。
個人的な話ですが、この母親のやる事なす事、金の無心する時の喋り方とかうちの母親そっくりでスクリーンに向かって「どこにでも行っちまえ!」と叫びたくなったもの。
この時代の映画を見て(しかもたまたま見に行った映画で)こんなに共感出来る人物に出会えるとは思わなかった。国立映画アーカイブさん本当にありがとう!

一緒に働くお燗番娘おふじ、彼女は容姿にコンプレックスがあるが、おしげに「これで何か実家にでも送ってやって!」と母親からご機嫌取りに受け取ってしまったお小遣いを突きつけられ、言われた通り実家に送ったら便箋何枚もの長文で感謝を伝えて来るこの違い!
世の中の親ってこういうものなんだなって知る瞬間です。
妹は妹で自分が意中の男性といい感じだし、親からの危害も何故か妹には及ばない、これもまたリアル。
最後には意中の男性の名を騙って呼び出された挙げ句抱かれてしまったおきよ。
どんよりとした音楽、暗闇の中を歩くおきよの姿がラストショット。
それでも生きていかなくてはならない人生の重さが観客に共感を呼び起こし映画は終わる。

劇中戦前の隅田川のカットが何度か出てくるが、ここに映されるのは東京大空襲で惨劇が繰り広げられる前の隅田川。
我々と同じように人生に悩み苦しんでいた人々がいたこの地が数年後空襲で焼け野原になったのかと思うと居た堪れなくなる。
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