環奈

VORTEX ヴォルテックスの環奈のレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.8
今年ベスト
これまでの作品にも見えた実験的手法が、今作では、観客への嫌がらせ(そこが魅力なんだけど)に終始せず、ちゃんと話としての面白さと直結している。でも嫌がらせも忘れない。
新境地であり最高傑作
まさにノエの本気を見た。というかんじ。嬉しすぎる

序盤からラジオやテレビを使って死と破滅のオーラを充満させ、その中でいつ終わってもおかしくない日常が進んでいく。この綱渡り感はライド感になり、やっぱり体験型映画監督の最高峰だなと思わされる。
観客が爺さんの行動に気を取られてたらしれっと婆さんがやらかしてるシーン。二分割が最も効果的に機能していて、認知症介護でありがちな「目を離していた隙に」を観客に体験させる最高に厭な演出

ノエのテーマ「時は全てを破壊する」が、「老化と死」いう抗えない運命と繋がる事で普遍性を持ってダイレクトに伝わりやすい

息子を介して浮き彫りになる家族の定義や、倒れた夫に対する妻の行動から情緒的に映し出される愛など、これまでらしくいろんなテーマ性を孕んでいる
個人的にはこの映画のテーマ性はメメントモリとして受け取った
二分割にされた死への認識ができない妻/死から現実逃避する夫を、観客に全て認識させ直視させる
そして死後、空っぽになった意味のない家と意味のなくなった残してきたもの。からのエンターザボイド的な空撮
これまでノエは、セックス、暴力、血、ドラッグといったきわめて「生」的なものを見せつけることで死の匂いを漂わせてきたけど、今作はその逆の手法であると言える
死に寄り添わないことこそが脳の破壊であり、破滅であり、死なんだと。
最近母親が認知症になり、自身も脳卒中で倒れたノエだからこそ今撮りたかった映画なんじゃないだろうか

視覚で観客にダメージを与えてきたノエが、視覚に頼らない精神攻撃まで手にしてしまった
ゼルエルの次、アラエルかよ状態

関係ないけどアルジェントが心臓を抑える時、赤い光で照らされるの大好き
そんな証明なかったでしょ
環奈

環奈