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VORTEX ヴォルテックスのsymaxのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.9
"人生は夢の中の夢…"

二人は年老いた…重い心臓病を抱える夫と日に日に悪化する妻の認知症…

二人きりの生活に限界が近い事はわかっていても、自分の生活で一杯一杯の息子はどうする事も出来ない…

老人ホームへの入居を勧める息子に対し、自分達の全てが詰まった家での生活を手放す事がどうしても出来ない夫…ゆっくりとそして…確実にその日がやってくる…

常に、暴力や性を実験的手法で過激に描いてきた鬼才ギャスパー・ノエが、最新作で選んだ題材が"老い"と"死"…

一組の老夫婦の現実を冷たく突き放すように観せていく…その"死に様"は、我々観客にとって、とても他人事ではなく、いつかの自分なのだ…

"心臓の前に頭が壊れる全ての人へ"

と始まる物語は、穏やかな老夫婦の一場面から、画面は真っ二つに分かれ、同時進行で夫の目線と妻の目線で描き、もはやドキュメンタリーのよう…妻の奇行の一方で、コソコソと愛人に電話を掛け、愛の言葉を語る夫の姿を同じ画面で見せる構図は、中々考えさせられました。

夫を演じたのは、まさかのホラー界の帝王ダリオ・アルジェント監督…演技というよりも、普段をそのまま映したようなその姿が更にリアリティを持たせます。

淡々とそして、段々悪くなってくる夫婦の姿は、痛々しく、観ている者の心に重くのしかかってきたところで、ある場面から片方がずっと黒に…そしてやがて…

夫婦の歴史がこれでもかと詰め込まれた部屋の様子を捉えていくラストの数カットの秀逸さといったら…もう…
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