サマータイムブルース

VORTEX ヴォルテックスのサマータイムブルースのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.0
「心臓の前に脳が壊れる全ての人へ」

心揺さぶられて涙しました
自分の亡くなった両親の状況と重なって、どうしても穏やかな気持ちで見ていられなくなります

老夫婦の死に様が淡々と描かれます
夫ルイ(ダリオ・アルジェントさん)は映画評論家で、作家であり、心臓病を患っています
妻のエリー(フランソワーズ・ルブランさん)は元精神科医で、近頃、認知症を発症しています

ダリオ・アルジェントさん、監督だけでなく俳優業もされてるのか!!しかも演技うまくてびっくり!!
そして、それを上回る演技だったのが妻役のルブランさん!!
その演技は本当に認知症なのでは?と疑うほど素晴らしいものでした
落ち着きなく視線があちこちに泳いだり、同じこと繰り返したり、相当研究されたのだろうなと感じました

始まってすぐに画面が左右2分割されて、同じ部屋にいても夫と妻は別々のフレームで描かれます
ギャスパー・ノエ監督らしいトリッキーな演出で、ずっとこのままなのかな、だとしたら見づらいかな、などと思っていたのですが、すぐに気にならなくなりました
この辺は監督の手腕が光っているなと感じました

夫婦には息子と孫がいて、息子は両親を心から心配して頻繁に訪ねてきます
そして、夫妻も互いを思いやる愛に満ちた理想の家族、それは真実です
ただ、決して品行方正な人物でないところが妙にリアルに感じました
夫には昔の仕事仲間の愛人がいて、妻が隣の部屋にいるのにずっと彼女に愛していると連呼したり、息子も仕事が忙しいと言いつつ、ヤクの売人してたり、病気の両親にカネの無心したりするクズなのです
2人の住まいも普通のアパートで、整理整頓されているわけでも、清潔なわけでもなく、その辺リアリティを感じました

奥さん、トイレにたくさんいらないもの流して捨ててたけどあれで詰まったりしないのかな
日本のトイレは絶対に詰まると思う(笑)

普通こういう場合福祉の援助があって、家の中を安全に改装したり、デイサービスとか提供したり、いろいろあると思うんだけど、その辺はどうなんだろう
職員が、夫婦を介護施設に入れようと説得するのを、夫が頑なに断るシーンは印象的でした

夫が先だったことを理解できなくて、家中、夫を探し回る妻の姿が切なくて泣いてしまいました
それから、夫が亡くなった後、2分割された片方の画面がずっとブラックアウトしたままなのが辛かったです

ここで起こったことは決して他人ごとではないです
世界中どこでも、誰でも、特に少子高齢化の日本では毎日のように、必ずどこかで起こっている日常なのだと思います
いつか自分もそうなるかもしれない・・・

私はある日突然ころっと死にたいな(笑)