介護映画と言っても、食事や入浴や排泄の介助をする場面はなく、徘徊している妻を探しに行くといった程度。にもかかわらず、妻の壊れっぷりに戸惑う夫の苦しみは伝わってきた。しつこく愛人に連絡を取ろうとするが、冷たくあしらわれて、傷心まで追加されるし。
しかし救いがないわけではなく、孫を伴って訪ねてくる息子は両親の話を聞き、解決方法を考える。この男、薬中だけど、論理的だし、言ってることは間違っていないし、ちゃんと両親の心に寄り添っている。これ以上の親孝行はないと思うけど?
そして、夫が倒れた際、急にシャキッとした妻は息子に電話して救急車を手配。極めてgood job!最終的に死んだとはいえ、妻の火事場の馬鹿力愛を感じ取れた夫は、幸せだと思う。
夫にとっても妻にとっても、思い出と本や物が堆積した、愛着のあるアパルトマンを去らなくて済んでよかった。施設行きを彼女なりに理解してガス栓をひねった妻には、感情と知恵があったということ。
あのアパルトマンは、本当に素晴らしかった。色んなコーナーがあって、気分にあった場所で過ごせる。食事の取れるテラスもすごくよかった。最近、終活の断捨離とやらが流行っているようだが、私はそんなことやらなくていいと思っている。最終的には業者が来て一掃するんだから、後ろ髪引かれる思いで持ち物をちまちま悩みながら捨てるなんて、時間とエネルギーの無駄。
キキが納骨堂で父親に、「ここがパピーとマミーのお家になるの?」と尋ねたとき、あの息子は「いや違う。お家というのは、生きている人間の住むところだ」的な答えを言って、感心した。日本人なら、「そうだね、これからはここがおじいちゃんとおばあちゃんのお家だ」とかメルヘンなことを言いそうだもの。
愛アムールのエマニュエル・リヴァのような華奢な感じではなかったが、エマニュエル・リヴァの堂々たる体格から滲み出る知性と悲しみが尊かった。
画面二分割は、臨場感が増して効果があった。