コーディー

VORTEX ヴォルテックスのコーディーのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.3
情愛だけでは決して重なることのない視線。
認知症の妻と暮らす自身も心臓病を患う夫、側にいるのに遠ざかり互いを見失う老夫婦の儚い夢のような現実を全編分轄画面で捉え、共感と混乱を体験させられる…
そんな虚無感と、それでも人生を慈しむ心を途轍もない説得力と距離感で描いた傑作!

夢の中を彷徨うように生きる妻と豊かな生にしがみ付く夫が何の解決策も見当たらぬまま現実を突き付けられていく…
そんなひたすら鬱々とした展開ながら、二人の元に息子が訪れると幾らか憂鬱や悲しみが和らいで見えたし、隔たっていた夫婦の世界が画的にも感情的にも緊密になっていく様子に何か特別なものを感じ、胸が詰まった。

ギャスパー•ノエ監督と言えば、暴力的だったりトリップ感だったり狂気の世界。なイメージが強かったけど、今回はそんな刺激&過激描写を抑えた静かな映画でした。
けれど逃げ場のない往生際で足掻く人々をひたすら見つめ、変に意味を持たせず在るがままの生命を描く。ドラッグの様な幻覚も妄想もないって意味では監督の過去作よりも容赦ない映画だったのかも。

また異色なキャスティングも面白く、夫役ダリオ•アルジェントの虚勢と脆さが入り混じったような〝まだやれる感〟が抜群に良かったしwこんなにガッツリ演技できるの知らなかったので驚いた。
そして何と言っても妻役のフランソワーズ•ルブランが圧倒的だったし、ほとんど台詞なく虚無を彷徨いながらも様々な変化や感情を繊細に表現していて、特に終盤は一時も目が離せないぐらい惹きつけるられた。