木蘭

VORTEX ヴォルテックスの木蘭のレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.9
 昨今流行の「認知症に罹患しても諦めないで!」とか「豊かな老後」とか言った甘い謳い文句を叩きのめしてくる2時間。死ぬかと思った。

 心臓疾患を抱えた老映画評論家と、認知症を患った元精神科医の妻という夫婦に加え、妻とは別れ(別居?)て幼子を育てる薬物中毒の問題を抱えた息子の姿が映し出される。
 映し出されると書いたのは、特に明確な物語が描かれる訳ではないから。まるで老老介護の状況や、痴呆症の患者を抱えた家族を記録したドキュメンタリー映画を観ている様だ。

 これが、2分割された画面で同時進行で別々の人物(主に夫婦)の行動が映しされる。
 監督曰く、同じ時空間にいても感じる孤独を表現したかったらしいが、結果的に一本の物語を追うのでは無く、状況を俯瞰して眺めるという観客の傍観者的立場が強調された様に思える。
 それがまた、状況から生じる不安や緊張感、ホラー映画の様な恐怖をかき立てる演出につながっている。

 特に物語が在るわけでも無い、ひたすら残酷で、時に滑稽にすら見える、ほろ苦い人生の終末期の姿を淡々と映し出す2時間に、「俺は一体なにを見せられているんだ?」と終始困惑するし、途中から「長い、辛い、もう充分だ!」と憔悴もするのだが、不思議と後から思い返すと「うわぁ...」と胸を締め付ける感覚に襲われるので、良い映画だったのかも知れない。

 シナリオは15ページしかなく、殆どが即興演劇的に作り出されたらしいのだが、これが見事。子供がミニカーでガチャガチャと遊んでいる姿や、叱る父親や祖父母の姿も、実に自然。
 演じている俳優達が素晴らしく、特にダリオ・アルジェントはコレが初めての本格的な俳優業とは思えない・・・運命が少し違っていたら成っていたかも知れないパラレルワールドの自分を演じているとはいえ。正しい監督は演技も理解していないと行けないというのは本当なんだなぁ。

 それと、歳を取ったら持ち物を整理するのは大切!と改めて思った。
木蘭

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