カルダモン

VORTEX ヴォルテックスのカルダモンのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.7
長年連れ添った老夫婦の暮らしを、分断された左右の二画面が見届ける。夫は映画脚本家で心臓病、妻は元精神科医で認知症を患っている。

ふたつに分割された画面は時に寄り添い、時に離れながらゆっくりと老夫婦の距離を描き出す。物理的な距離だけでなく心の距離までもが垣間見えるカメラ使い。全編ぶっ通しでスプリットスクリーンを使った映画は初体験だが、二画面であることで互いの画面が呼応したり同じ構図になったり静と動が浮き上がったり。こんなに実験的でトリッキーなのにちゃんと主題を描く必然になっているのが素晴らしくて、面白くて、新鮮。

不思議な間取りのアパートや、人物の表情、それらが変化していく様。伽藍堂になった部屋の寂しさがたまらなかった。


監督ギャスパーノエ、主演ダリオアルジェントという引きの強さは2023年の映画でトップ級だった。しかし仕上がった作品はこの二人から想像される尖った地獄悪夢とは程遠い、寂しい苦しいラブの話。いや、遠くはないかも。