かわちゃん

VORTEX ヴォルテックスのかわちゃんのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
5.0
新年一本目は、異才であり天才のギャスパーノエの新作。
認知症の妻と心臓病の夫の末路を複眼映像で捉え、恐ろしい映画だという評も聞こえてきていたが、全くそんな印象なく、極めて真っ当な夫婦の普遍的な物語に見えたのです。

過去ドラッグや性や暴力など、露悪的な表現が目立つギャスパー作品ですが、本人はそういうものをとても距離をとって客観的に捉えていると思っており、本人は実はとても柔らかい人だと思ってます。
以前ゆうばりファンタで会ったときも、美味しそうにソフトクリームを食べており、サインを求めると丁寧にサインしてくれたどころか、「アレックス」の原題のirreversibleにちなんで、私の名前も逆に書いてくれたなんて思い出もあり。見た目はこわ目ですが、あんなマイルドな監督から、こんな強烈な作品が出てくるんだと感心したことも思いだしました。

なので、今回の監督の視点も、むしろ夫婦の末路としては幸せな最後にも見えたのです。
エンドテロップの流しかたや、主人公たちの誕生年をこだわりのフォントアートで表現したり、単眼から複眼になる映像だったり、ミニマルになっていくアート的なアプローチは流石!というセンスの良さながら、物語は自分にはとてもハッピーという言葉ではなきリアルな良い落としどころだったなと、天才の世界を満喫させていただきました。
寡作な監督ではありますが、もっと撮ってほしいなあ。