ぶみ

VORTEX ヴォルテックスのぶみのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.5
人生は、夢のなかの夢。

ギャスパー・ノエ監督、脚本、ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン主演によるフランス製作のドラマ。
心臓病を抱える夫と、認知症を患う妻という老夫婦の日常を描く。
映画評論家の夫をアルジェント、元精神科医の妻をルブラン、離れて暮らす息子をアレックス・ルッツが演じており、孫となるキキが時折登場するものの、主要人物はほぼこの三人。
冒頭、通常はエンディング後にあるスタッフロールがいきなり流れるため、面食らうこととなるのだが、やはり本作品の最も特徴的なのは、その冒頭のシーン以降、ほぼほぼ映像が左右に二分割されていること。
それぞれの画面で夫と妻の動きを同時進行で追っていくのだが、時折二人の動きがオーバーラップするため、同じシーンを違うアングルで撮影しているような場面があったかと思えば、基本長回しの中で一瞬黒くなってカットが変わったりといった演出が効果的であり、右と左の映像の間には黒い線が入っていることから、夫婦といえども、基本はそれぞれであることが、手に取るようにわかる手法となっている。
物語自体は、日に日に認知症の症状が進行していく妻と、それに翻弄される夫の日常が淡々と映し出され、劇伴もなければ、殺人事件が起きることもないため、決して楽しいものではなく、結末がどう転ぼうが、ある意味タブーとされる人間の末期を現実として観る側に突きつけてくるものとなっていることから、人によっては直視できないのではと思うもの。
また、鑑賞後に振り返ってみると、ルッツ演じる息子にはステファンという名前があったものの、夫と妻は、最後まで名前が示されなかったことも、名もなき二人の終末を描いた内容として非常に効果的だったかなと感じた次第。
タイトルでもある『渦』は、それを直接的に表現しているシーンもあるかと思えば、悪夢の渦に飲み込まれていくような意味もあると感じられ、なかなか深いものだと思うのだが、前述のようにエンドロールが先にあるため、本編終了=上映終了となり、そんなことを考えたり、余韻に浸ったりといった余裕なぞない時も人生にはあることを体感することができるとともに、二画面とは言え、カメラは二台以上あり、その計算されたカメラワークに感服した反面、どこに定点カメラが仕掛けられているのか気になって仕方なかった一作。

すべての映画は夢だ。
ぶみ

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