ツクヨミ

VORTEX ヴォルテックスのツクヨミのネタバレレビュー・内容・結末

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

スプリットスクリーンを巧みに使い人の老いと死を描く虚無なるリアリズム。
ギャスパー・ノエ監督作品。"ルクスエテルナ"が好きだったのでノエ監督最新作を見に行ってみた。
まずオープニング、ワイドスクリーンなのに小さな画角で"人生は夢の中の夢"だと語りながら飲む老夫婦、ゆっくりとカメラが上にいき反転したかと思ったら謎の古めミュージックビデオがかかる感じにまず困惑しつつ魅せられる。かと思ったら寝ている夫婦のショットになりゆっくり画面が横に広がりつつ真ん中に黒い線がゆっくりと入っていく、じわじわとスプリットスクリーンになる驚きに少しワクワクした。
そしてそこからは全編スプリットスクリーンで、認知症の妻と心臓病の夫の二人を見せていく。それも認知症おばあちゃんが何か小さな物忘れで問題を起こすと後追いでおじいちゃんが気づいて解決するいたちごっこを2画面で形成、いちいち画面内でやらなきゃいけないことをスプリットスクリーンで各々視点で見せる時間短縮編集がいい感じ。メインの登場人物が老夫婦なのでわりとゆっくりなのもありある意味"ルクスエテルナ"とは逆に見やすいスプリットスクリーンであるとも言える。
あとスプリットスクリーンの使い方としては、おじいちゃんとおばあちゃんが交錯する瞬間に右左がパッと変わったり、カットをわかりやすくするためにわざわざ1フレーム黒をサブリミナルっぽく入れ込んだりする技巧とかもめちゃくちゃ面白い。ただの画面で認知症やらかしを描くんじゃつまらないところを2画面でやることでちょっとしたスリルを付随させる編集力が抜群に良い。
そして普遍でリアルな老夫婦の生活がまた痛烈、最近では"ファーザー"がうまいこと主観で困惑する認知症像を描いたが今作はまた違った視点で認知症のリアルを追求。スプリットスクリーンにより認知症本人のおばあちゃん.一緒に住み介護するおじいちゃん.老老介護をなんとか止めようとする息子の三つ巴のドラマが絡まりどうしようもない問題を突きつけてくるのだ。後半の怒涛の心臓発作による死亡.ガス火をつけて忘れ焼死し他界する夫婦の姿が無慈悲に虚無を与えるリアリズム、これが人間の老いと死の真実なのか。
それとゴダール"軽蔑"みたいに監督ダリオアルジェントを起用し映画論を喋らせたり、ラジオなどでわかりそうでわからない理論を垂れ流したりと困惑するしゃべりがちょっとゴダールを感じさせる。ジョルジュドルリューの曲の使い方とかも面白かったし、久々に見終わった後に虚無感に支配される映画体験ができて感無量だった。スプリットスクリーンによる編集の好例は間違いない。
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