湯っ子

VORTEX ヴォルテックスの湯っ子のレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.5
人生は夢の中の夢。そういう映画だったと思う。死を見つめることは、同時に生について見つめることでもある。極めて現実的に描いているのに、何かこちらも夢を見ていたような気持ちにさせる映画だった。
克明な描写に衝撃を受ける人たちも多いと思う。でも私が最後まで観て感じたのは「とっても仲の良い夫婦だったんだな」だし、2回目を再生した時、あの花がいっぱいのバルコニーでワイングラスを傾けるあの場面には愛と幸せがあふれていて、「今ふたりはここにいるのだろうな」と思った。

このふたりは最期の時まで、(病に侵されていたとしても)本来の自分で生き抜いていた、立派だと思う。その点、彼らの息子ステファンは、まだ迷いの中で生きているようだ。経済的にだけではなく、精神的にも未だに親に依存しているところもあったのだと思う。
両親を見送り、墓に納めた時、ステファンの息子キキとの会話は、なんてことないようなのにとても心に引っかかった。どういう意図なのかはわからないけど、あの会話から、ステファンはやっと両親への依存を断ち切ることができたのかも、となんとなく感じた。

ステファンの息子でありふたりの孫のキキの「まだ人間になってない感」がたいへん可愛らしい。子供を可愛らしくうつくしく撮ることで、命を繋ぐ希望を描いているようにも感じる。それなりの遺産もあるのだろうし、ステファンにはそれを元手にまともな職についてキキをきちんと守り育ててもらいたい。
湯っ子

湯っ子