シシオリシンシ

屋根裏のラジャーのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

屋根裏のラジャー(2023年製作の映画)
3.7
ジブリから暖簾分けしたアニメ会社スタジオポノックの第二回長編作品。イマジナリーフレンドを題材にした作品で予告の印象が良かったので期待していた。しかし前作『メアリと魔女の花』が私的に虚無感しかない"がらんどう"な作品だったので一抹の不安も同時にあった。
実際に観るとなるほど、良く出来た映画とは言いがたいものの、真っ直ぐなメッセージ性をちゃんと映画内で目一杯伝えようとしていた好感の持てる作品であったと分かる。

前半から中盤までは説明的な台詞まわしや野暮ったい展開に正直「合わないなあ」と辟易していた。また舞台となる街並みが明らかに異国であるのに不自然に日本語の文字が用いられているのに中途半端さを感じ芸術性を著しく阻害しているみたいで、前半は特にノイズになっていた。

しかし後半のイマジナリであるラジャーが現実の無情さや残酷さを知ってなお、唯一無二の友達であり創造主のアマンダに会おうと決意することを皮切りにこの映画が覚醒する。
アマンダが愛用していたとあるモノに隠されていたメッセージが母のリジーとラジャーの目に触れた瞬間、私はここで心を強く動かされた。このメッセージは日本語で書かれているのだが、もし世界観に合わせて異国語で書かれていたら芸術性は保たれるが直感的に分かる感動では無くなってしまう。絵面の良さや芸術性を犠牲にしてまでも私たち日本の老若男女全ての観客にメッセージが伝わるように選択された意図した作劇だと分かり、己の見識の浅さを恥じた。

スタジオジブリ本家にして宮崎駿の最新作たる『君たちはどう生きるか』が観客の感性や知識や見聞に委ねたハイコンテクストで分かりづらい複雑怪奇な物語であったのに対し、同じジブリを継承した本作が「想像を愛することの儚さと美しさ」を言葉で誰しもに伝わるように描かれた物語であることが、まるで鏡写しのように対照的だ。

ムラのある演出や脚本の野暮ったさが重ね重ね惜しい点ではあるが、美麗な作画と強いメッセージ性は十二分に伝わってきて、かつて(もしくは今も)自分に寄り添ってくれた想像の世界の住人たちにふと思いを馳せたくなるような観賞後感が心地よかった。
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