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屋根裏のラジャーのメガネンのレビュー・感想・評価

屋根裏のラジャー(2023年製作の映画)
4.6
音楽、映像、美術、演出、演技、ストーリー、あらゆる点で前作のメアリと魔女の花を超越し、感動的な作品に仕上げてきたスタジオポノックの成長に拍手を。いや、実に感動的な作品だった。もちろんまだまだとっ散らかってまとめきれていない部分もあるのだが、少なくともポストスタジオジブリかつその正当な遺伝子を受け継ぐアニメスタジオとして、真剣に物語を作ることを辞めない姿勢が素晴らしい。
どうしても「君たちはどう生きるか」と比べてしまうが、明らかにあの作品が放棄しているストーリーテリングの部分において、本作は抜群のうまさを見せている。
まず、原作の持つ独特の空気感を表現するのが上手い。想像の世界を描くと言うのは一般に大変難しいことで、と言うのはそもそも想像の中には何もかもを詰めることが可能であり、それが子どもの世界であるならばより一層その自由度をどのように描くのか匙加減のようなものが試されるのだが、冒頭十数分で観られるアマンダのイマジナリーワールドはたくさんのエモい表現でいっぱいだ。しかもそれらがある種のリズムや色相を持って描き出されているので、心に訴えるものがある。
パプリカという今敏監督の映画があるが、あれもイマジナリーワールドを描いている。こちらはこちらで非常にエモいのだが、その性質はラジャーとパプリカでは対極的だ。悪夢を美しく描写したのがパプリカならば、子どもの夢を鋭く描写したのがラジャーと言えようか。
他にも、物語の構造が現実とイマジナリーの世界の二つを行き来する重層的なのに対し、決して難しさを感じさせない点にも着目したい。これには、悪役であるバンティングのキャラクター性というか、立ち位置のようなものにある魅力と関係があると思う。作品全体に漂う非現実性をバンティングのもつ良い意味での不快感と、得体の知れない超常性がうまく中和しており、いわゆる作品の性質上陥りがちなふわふわとした地に足のつかないような空気を、ピリリと引き締め、現実の世界を意識させてくれる。だのに、バンティングというキャラクター自体は極めて非現実的な存在であり、ここにも物語の多層性を感じさせる。

これらを総合して、作品は難しいテーマを鮮やかに、そして軽やかに描写することに見事に成功していると感じた。
アマンダの無事を案じて、母のエリザベスが、娘の傘を開き、そこにあるセンテンスを見つけ、そしてラジャーがラジャーとして名付けられた理由が明らかになるシークエンスは非常に感動的で、大好きだ。実に久しぶりに映画で涙が止まらなかった。

この作品には語り尽くせない魅力があり、それを難しい制作環境で完成させたスタッフ陣の努力と勇気にも感動させられる。

コミックスウェーブフィルムス
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スタジオコロリド

個人的にポストジブリを担うと目している3社である。
スタジオポノックはどこまでこの3社に迫れるだろうか。楽しみだ。