じゅ

ピンク・クラウドのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

むずそうだなって思いながら行ったらその100倍むずかったわ。ダンブルドアに手合わせ願いに行ったらグリフィンドール出てきましたみたいな。まあそんなことはどーでもよくて。


突如世界中の都市を覆ったピンク色の雲。触れた者が10秒で死ぬことが観測され、調べようとするもサンプルが採れない。やむなく緊急警報を流して人々をその場所にいた建物に押し込め、終息を待つことに。ドローンによる工事で窓から物資を送り込むダクトを取り付け、一応生きてはいけるようになった。
ジョヴァナとヤーゴは2人きりでジョヴァナの母の家に籠ることになったカップル。あらゆるレクチャーを動画やビデオ通話で受けられるようになった頃、助産師の助けを借りて息子のリノを出産した。そのまま家の中だけで息子は成長していくことになる。やがてヤーゴは新興宗教により雲があることを受け入れ、ジョヴァナは何年もの長い閉塞に気が狂っていく。
家の外では、自殺者が出たり、スーパーマーケットから出られなくなった者たちの乱闘による死者が出たりした。ジョヴァナの幼かった娘のジュリアは友人の家から出られなくなったまま成人し、独りきりのまま閉じ込められ鬱になった友人サラとは連絡が途絶えた。ヤーゴの父は家に居合わせていた看護師が死に、その後痴呆症によりヤーゴのことを忘れてしまったため連絡をとることをやめた。
ある日、空にオーロラのように輝く緑色の雲が現れた。有害性について憶測が飛び交う中、ジョヴァナは雲の脅威から解放されたと歓喜した。しかし喜びも束の間、緑は白へ色を変え、再びピンクに戻った。VRゴーグルで仮想現実に依存するジョヴァナ。リノが算数の宿題をしていたPCに水をこぼしたことでリノにゴーグルを破壊され、仮想現実の外に引き戻される。ある夜、ジョヴァナは寝ているヤーゴとリノの額にキスをして、一人でバルコニーに出た。ピンクの雲がジョヴァナを包む。静かに10を数える。
・・・・・・。


どう捉えればいいだろうか。
とりあえず、ある瞬間に偶然その場に居合わせた集団あるいは個人のままその集団か個人の単位を10年くらい維持するよう強制されて破ったらデスペナルティ、っていう状況下での営みはおもろかった。特に少女らのパーティに居合わせたままその女の子らが成長したら思わず妊娠させちゃうデボラのパパ。雲が現れた後の状況を"異常"とするなら、異常な状況下で産まれて異常がデフォになってる少年リノってのも興味深い。まあでも、そういう表面的なところ以外にめちゃめちゃ重要な何かがあったように思える。

とりあえず気になってるのは3つ。結局ピンクの雲って何を表現したものなのかってところに繋がったりするんだろうか。
・1階と2階で家庭内別居してたジョヴァナとヤーゴが停電を機に仲直りしてまた一緒に寝て起きた時にあった天井のヒビは何?
・一瞬現れた緑の雲は何?
・ジョヴァナは死んだ?死んでない?

ブラジルの2017年かそのちょっと前の状況とか関係あったりするんだろうか。調べるのめんどいから一旦考えないでおこうかな。
あるいは作中のニュースか何かの音声で「歴史的にブラジルは分断されてきたから今こそ協力し合うべきだ」みたいなこと言ってたのがすごい関係あるのかも。


どこから何を考えるべきかもよくわかってないけど、とりあえずピンクの雲ってつまり何なんだろう。作品の意味合いとして楽観してるのか悲観してるのかもようわからん。

仮に本当にニュースの音声がすごい関係あるのだとしたら、ピンクの雲とは分断の象徴ってことになるだろうか。
分断といっても、どのくらいの規模感の分断なんだろう。ブラジルと外国の分断なのか、国内の政治的その他のコミュニティ同士の分断なのか、もっと小さい隣人同士くらいの話の分断なのか、身内の中の分断なのか。
もしかしたら全部だったりするんだろうか。あの雲は世界中の都市に現れたとのことだったけど、国際協力みたいな様子はニュースとかで語られてなかった。雲の発生1年を祝う家族の様子や、雲が発生したことにより犯罪や事故がなくなったとの利点を話すインフルエンサーに、ジョヴァナはただバカとこき下ろしただけだった。何かを訴えようと必死に床を叩くジョヴァナの行動に何の反応もなかった。父親思いだったヤーゴは、父が痴呆症になった途端に連絡をやめてしまった。

赤の他人と性器によるうわべだけの一時的な繋がりは持てても、もっと重要な繋がりを持てない。雲に触れると死ぬというのは、そんな状況を強制している何かがあることを表現していたのかもしれない。形のない雲ということは、目に見えない何か、例えば個々人の無意識的なものとか。
スーパーマーケットでの乱闘による死亡事件って、元々繋がってなかった人たちを無理やり繋げようとしたことによる悲劇だったのかもしれない。

ヤーゴは雲を受け入れた。つまり、分断の現状を受け入れた。4か5歳かそこらだったくらいの頃のリノに雲が好きかと問われ、戸惑い誤魔化そうとしながらもリノに質問を重ねられて好きだと言ってしまった。
リノは雲が世界を覆う状況が当たり前のものとして育っている。つまり、分断が当たり前のものとして育っている。リノは分断を無意識に受け入れている俺らへの警鐘なのかもしれない。
ジョヴァナは違う。最後まで雲を憎んだ。雲がない世界を望み、つまり分断のない世界を望み、待ち侘び続けた。ヤーゴはジョヴァナの思い込みが強いと言う。スーパーマーケットの事件の動画を見せられてのこと。ジョヴァナの目に見えていて実際に世界に蔓延る分断が、ヤーゴには思い込みとかフェイクニュースか何かにしか見えていない。本当はヤーゴみたいに無関心でいたり、これが現実だと悟ったふりをしていてはいけないのかもしれない。とはいえ、ジョヴァナが仮想現実に入り浸るしかできなかったみたいに、たった一人じゃ哀れなほどに無力であることも事実。違う考えの者には理解しようとする試みもせず「バカね」で済ませちゃうのもまた事実。哀れ。

もしかしたらもしかして、雲は分断の象徴でなく戒めなのかもしれない。分断を受け入れているヤーゴとかが触れると死ぬのかも。雲による分断を憎んだジョヴァナは死んでないのかもしれん。

緑の雲と天井のヒビはわからんけど、例えば緑の雲とは作中において判定の時間を表すものだったりする?何を判定するかって、分断への国民の意識調査みたいな。分断されたままでいいやって思ってる人が多数派だったから引き続きピンクの雲撒きます的な。


難しい話だったけどまあなんにせよヤーゴが大音量で通話相手の喘ぎ声流しながらやることやってる時にジョヴァナにLANケーブル抜かれたのはおもろかった。
息子の性事情はどうなるやら。


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上映後、二人組の会話が聞こえた。青年が「10秒で死ぬってのが嘘だったんでしょ」と語ってた。彼の見解によればジョヴァナは死んでないのだそう。
初めの方を観てなかったのかなと思ったけど、これだけ自由に捉えられそうな本作ならばあり得ない話でもないのかもしれない。

例えば、ピンクの雲は余命あと10秒の人に反応して纏わりついてくるものだったとか。冒頭の犬連れの人は10秒後に何か静かな急死を迎える運命で、雲はそれを報せにやってきたみたいな。雲による(と推察されている)死者数が公表されてないとジョヴァナは言ってたけど、まあヤーゴの言う通り把握できていないからだとして、死者数を仮に出せたとしたら案外めっちゃ少ないのかも。そんな死に方の運命の人なんてまあ少ないだろうから。
つまり因果が逆。雲に触れたから死ぬんじゃなくて、死ぬから雲に触れられる。

サンプルが採れないってのは、その因果を逆に捉えたが故に危険な毒ガスと誤認して近づけなかったというのももちろんあるかもしれないし、もしかしたらまだ死なない運命の人からはするりと逃げるから採れなかったのかもしれない。

まあそう仮定したとして、現に雲に触れられたってことはジョヴァナはラストカットが終わった一瞬後に死ぬことになるんだけど。


だったら視聴中に俺の思考の墓場に行った「ピンクの雲 = 環境意識への戒め」説もせっかくだし備忘録的に残しとこう。製造業務めでグリーンだ脱炭素だ何だ言われ続けてる脳には抗い難い思考だったんだよな。
空気を汚しすぎたので皆さん10年外に出るのをやめてください的な。緑の雲でどういうわけか一旦無毒化されて、またある程度汚れたら有毒性を復活させますみたいな。
まあないだろうけど。
じゅ

じゅ