前髪メガネ

ピンク・クラウドの前髪メガネのレビュー・感想・評価

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
3.9
偶然の類似、この情勢のifの世界。

高層アパートの一室で一夜を共にした男女ヤーゴとジョヴァナを、けたたましい警報が襲う。強い毒性を持つピンク色の雲が街を覆い、その雲に触れるとわずか10秒で死に至るのだという。2人は窓を閉め切って部屋に引きこもり、そのままロックダウン生活を強いられることに。事態は一向に好転せず、この生活が終わらないことを誰もが悟り始める。月日が流れ、父親になることを望むヤーゴにジョヴァナは反対するが、やがて2人の間に男の子・リノが誕生。リノは家の中という狭い世界で成長し、ヤーゴは新しい生活になじんでいく。しかし、ジョヴァナの中で生じた歪みは次第に大きくなり……。


世界中が自宅待機を強いられた2020年。日本でも家にいようと団結し、家でできることを探し息苦しさを誤魔化していたあの頃を本作を通して思い出した人も少なくないのではないでしょうか。
実際にCOVID-19をテーマにした作品はいくつかあるけど、本作はCOVID-19より前に書かれた脚本のもので外出ができない、外に出たら死の危険性と類似点があるが偶然の一致。
個人的にもロックダウンで外出ができず、思い通りに過ごせられない毎日とそれがいつまで続くのかわからない不安を抱えていたあの日々を思い出しました。
毎日映画に没頭して現実逃避をしていたけど、それでも約2ヶ月は流石に長かった。

しかし本作はそれを年単位で過ごしていて、一瞬の外出すらも許されない完全監禁の環境。実際に作中でも描かれますが自殺者が絶たないだろうなぁ。
せめてCOVID-19よりマシだとするならば、人から人へ伝染しないこと。ピンク・クラウドはウイルスとは違ったことで疑心暗鬼の悪展開は免れたかな。

本作ではピンク・クラウドの正体を暴こうとしたり、対策を練ったりなどとせず順応しながら巣篭もりに徹するのですが、これがまた過去にあったパニック映画とは違い”人類の完全降伏”のようで他とは違う苦しさがあったように感じた。
外出が完全に出来ないからこそやれることに制限はされるし、外出先からも帰れない。
離れた家族とのコミュニケーションもうまく出来ずに気持ちがすれ違ったりするのも心が痛い。
認知症の父を持つヤーゴの心境もまた胸が苦しくなる。

子供の出産も育児も完全隔離された世界での中進められていくのだけど、外の世界を知っているか知らないかで価値観も変わってくることで親子の形も歪に見えた。ある意味本作は孤島に流れ着いた男女のようにも思える。そこで0から作っていかないといけないような世界。怖い。


観ていて思ったのが、クラウドに意思があるのか?狙って包み込んでいるように見えたが隙間から入ってまでのような執着があるわけでもない。犬の吠える声はずっと聞こえていたが、冒頭の犬をはじめ人類以外には無害なのか。
また、竜巻などの風害の場合どうなるのか。
地下に都市を作って人類の移住はできなかったのか。
深く考えがいのある作品でした。

パンフレットはまだ読めていないので、そこでまた新しい発見がありそう。
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