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ピンク・クラウドのumisodachiのレビュー・感想・評価

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
4.0


コロナ禍前に構想・撮影されたという閉塞的なパンデミックを描いたブラジル映画。

一夜を共にしたヤーゴとジョヴァナ。そのとき、空には触れるだけで10秒で死ぬという正体不明のピンクの雲が現れ、市民は一切外に出ることができなくなってしまう。最初のうちは「すぐに外に出られるようになる」と気軽に考えていたジョヴァナたちだったが、ピンクの雲はいつまでも現れず、何カ月と閉鎖状態が続いていく。やがてヤーゴは子どもを作りたいと考えるようになり……。

『プラットフォーム』や『ビバリウム』みたいな不条理SFかと思ったら、ちょっと違った。(そして自分が『ビバリウム』の感想を書き忘れていることにいま気づいた)

正直、SFだと捉えてしまうとかなり緩い。防護服みたいなやつ発明されるだろうとか、収入どうしてんの?とか、物流とかゴミとかどうなってんの?とか、まったくもって非現実的でお話にならない感じではあるのだが、本作の本質はそこではない。

外に出られないという状況における人間の心理、人間は何に希望を見出し絶望を見出すのか、なにがきっかけで心は壊れるのか、また救われるのか、最初から閉塞状態で生まれ育った人間はどういう風になっていくのかなど、限りなく「人間」にフィーチャーしている、どちらかというと哲学的な作品。なので、露悪的でセンセーショナルな描写はなく(ラブシーンはけっこうあるけど)、淡々と進んでいく。しかもほぼひとつのアパートメントの中で完結するのでかなり低予算だと思う。

私たちはコロナを知っているので、本作で描かれる閉塞感をリアルに感じることができる。外に出て誰かと話せないことがどれほどストレスになるかを知っているから、「ああ、確かにこうなるかもな」と感じながら鑑賞することになる。

マイナスから目を背け続けることで自分を守ろうとするヤーゴと、現実から決して目を背けることができないジョヴァナは徐々にすれ違っていく。面白いのは、ある一定のラインを超えたあたりから彼らの立ち位置が逆転していく点だ。状況が「異常」であるうちは楽観的で都合が悪いことから目を背けるヤーゴが現実逃避していると見えていたのに、あまりにも閉鎖状態が続いてそれが「通常」になっていくと、外に出られた過去を忘れられず今の状態を「異常だ」と思い続けるジョヴァナの方が、現実逃避していると見做されるようになる。急激すぎる変化に適合していく人間と、抗い続ける人間。果たしてどちらが「普通」なのだろうか?
このあたり、コロナやワクチンに対する考え方の違いなどに照らし合わせて鑑賞するとなかなか興味深い。

ブラジルらしくデザイン的にも非常に優れていたのも高ポイント。インテリアや照明のニュアンスが独特で、そのあたりもなかなか楽しめた。低評価をつける人が多そうな作品ではあるが、私はかなり好きだった。
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