カタパルトスープレックス

生れてはみたけれどのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

生れてはみたけれど(1932年製作の映画)
3.0
小津安二郎監督の戦前のドラマ作品です。テーマは『東京の合唱』(1931年)での「仕事の事情と家庭の事情の葛藤」をぐっと子供視点に引き寄せた「大人の事情と子供の事情」な感じとなっています。

仕事では出世をするために専務に擦り寄るサラリーマン(斎藤達雄)。さらに擦り寄るために郊外の専務の自宅近くまで引っ越します。息子二人(菅原秀雄と突貫小僧)は子供の中のポジション争い。そのポジション争いに「うちのトーチャンの方が偉いんだぞ!」がネタとなると雲行きが怪しくなる。だって、トーチャンは仕事では専務より偉くないんだから。まあ、それでもライフ・ゴーズ・オンだよね。

戦前のいつものメンツによるいつものドラマ。しかし、徐々に編集に戦後の小津っぽさが現れてきます。例えば固定したカットをつなぐ場面展開。まだまだ移動ショットもあります。ローアングルや執拗までに凝りまくった構図もありません。ただ、小津安二郎のプロトタイプっぽい感じではある。

「大人の事情と子供の事情」をテーマとした作品としては成瀬巳喜男監督の後期の作品『秋立ちぬ』(1960年)があります。映画作品としては本作よりも『秋立ちぬ』の方が完成度は当然ながら高い。