明石です

生れてはみたけれどの明石ですのレビュー・感想・評価

生れてはみたけれど(1932年製作の映画)
5.0
「勉強して偉くなりなさい」と教えられ育った双子の小学生。しかしあるとき「偉い大人」だったはずの父親が、会社の上司にみっともないおべんちゃらを使いヘイコラしてるところを目にし、父への不信からグレていってしまう。戦前日本のサイレント映画の大傑作。

ただでさえ狭い地域社会で、父親の直属の上司や会社の社長が同級生の父親という肩身の狭い環境。子供にとっては、自分の父親たるもの誰よりも偉いと信じたいもので、ましてや「勉強して偉くなりなさい」と教えられていたなら尚のこと。偉いってなんでしょうね?「どうして太郎ちゃんのお父さんは重役で、うちのお父さんは重役じゃないの?」「大人になって太郎ちゃんの部下になるくらいたら学校なんか行かない」合間あいまに挟まる字幕の台詞が刺さりまくったよ、、

あからさまに悪辣な人間は1人もいないのに、みんな苦労して生きてるがゆえのこのズブズブな現実感。そしてこんなにも厳しい現実を描いた作品なのにちっとも暗くないところが素晴らしい。いや、暗い映画は暗い映画で好きだけど、本作は、からりとしたユーモアを忘れずに描かれてるから、ああそういう気持ち、自分にもあったなあと素直に共感を寄せながら見られる。

あと細かいけど、オフィスに並んだ机を横に滑るように移動しながら捉えるカメラが、あくびをする社員たちを順ぐりに写していき、あくびをしなかった社員が写った直後に少し後ろへ戻って彼の顔を写し直し、あくびをしたらまたカメラが動き出すという演出に、コメディ作家小津の軽妙でユーモラスな面を垣間見た。

—好きな台詞メモ
「いくらぶったって、偉くないものは偉くないんだ」
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