平野レミゼラブル

全身犯罪者の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

全身犯罪者(2020年製作の映画)
3.4
【不謹慎が極まったFGO】
『ある用務員』『ベイビーわるきゅーれ』以降、スタント・パフォーマーで女優の伊澤彩織さんの大ファンとなってしまいまして、彼女の母校である日本大学芸術学部でトークショーが催されたらまあ行くに決まってるってもんで。
当日は伊澤さんの卒業制作作品である『terrorist A』を観賞するなど、非常に充実した内容だったのですが、それだけで帰るのもなんなので学生制作の映画も拝見することに。「映表理の卒博2021リターンズ」と題したその企画は、コロナ禍で潰れてしまった昨年の卒業制作作品の発表機会を改めて設けたもので『Ribbon』で発表の場すら奪われて慟哭する学生を見たばかりの自分としては余計に胸にジーンと来てしまう…!
そして、その中で芸術学部長賞を受賞し「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」や「カナザワ映画祭」にも出品される程の完成度の高さを誇りながら、そのあまりに不謹慎すぎる内容からWEBでの上映禁止の措置がとられた大問題作が本作です。


残忍な連続殺人を担当する刑事がタイムマシンを使って日本の著名な凶悪犯罪者たちに協力を求めて犯人逮捕に挑む……という内容な時点で、まあもう卒業制作として作るにはあまりにアレなんですが、出てくる犯罪者が実名こそ伏せているもののあからさまなのでさらにアレです。
まあ、戦前の事件である「津山三十人殺し」の都井睦雄や、犯人不明で散々創作物のネタにされている「三億円事件」の白バイの男はいいでしょう。「パリ人肉事件」の佐川〇政は半ばタレント扱いだったのでギリギリのギリでギリとします。だが「和歌山毒カレー事件」の林〇須美や、「オ〇ム真理教」の麻〇彰晃はアウトに決まってんだろ!!
事前に教授に渡した犯罪者リストから本当にヤバすぎるものは消されてなおこれなので、頭を抱えるしかない。

一応製作過程は真面目でして、例えばコロナ禍による人数の制限や倫理観の欠如によって生じる責任問題に関しては、松野友喜人監督自らが計11人の役柄全てを演じることによってクリア。その結果、映画全体の狂気度が跳ね上がったのは嬉しい効果かもしれない。一つの画面に複数人映る場面も結構あったので、VFX処理の成果を見せるという意味では卒業制作に相応しい作品と言えます。
なお、林〇須美はおろか、殺人鬼に襲われる女子高生役すら例外なく松野監督が務めているため、本当に絵面は狂っている。殺人鬼のボディダブルとして「女の子との絡みもあるよ!」という誘いに釣られてのこのこやってきて、松野監督のパンチラを拝む羽目になったという同級生は泣いていい。

撮影技術自体は非常に高く、流石に手作り感はあるもののモツがまろびでたり、頭がブチ飛んだりのゴア表現に妥協していない部分に好感が持てます。各犯罪者の演じ分けもしっかりしていて、特に麻〇の物真似に関しては流石に笑いを抑え切れなかったです。
犯罪者アベンジャーズとでも言うべきメンバーなんですが、まとまりはあまりになく、麻〇はメシを食うのがクッソ汚ねェわ、〇須美は佐川くんに毒を盛ってぶっ殺すわ、ムツオさんはそんな〇須美の頭フッ飛ばして制裁するわで、犯人を追う前に半壊しているのが酷すぎる。

というか、ムツオさんは仲間意識が無駄に高いし、猟銃を宝具みたいに格好良く取り出してちゃんと戦うし、全てが終わった後に責任取って自殺したりで相対的にまともすぎます。逆に三億円事件の犯人はあまりに存在意義がなさすぎて、何しに来たんだお前レベル。そもそもコイツだけ殺人者ですらないし。

この凶悪犯罪者どもを英霊めいて召喚して戦わせる部分で恐らくやりたいことはやりきっており、残りの尺で描かれる刑事と犯人の尋問はなんかサイコっぽいやり取りしているだけで中身が全くないのはまあどうかとも思いますが、そこはもう何を今更でしょう。
大事なのは「学生時代最後の作品なんだから好き放題やろう!!」という意志の下、これまで学んできた技術の全てを費やして、マジで好き放題やりやがった松野監督の熱意の結実にあるのですから。


…んで、そんな松野監督ですが先日発表されました新作ホラー映画『オカムロさん』の監督に大抜擢されまして、これは非常にめでたい!!それもあの衝撃の問題作『真・事故物件』で産声を上げた、新進気鋭のホラー映画製作プロジェクトの第二弾なのですから期待が持てます。ちゃっかり大学の先輩である伊澤さんを出してるのも面白いんだよなァ。
いやしかしまさか自分に「オレ、彼のことはインディーズの頃から注目してたんだよね~」って言う機会が訪れることになるとはね……存分に自慢したいので松野監督のこれからのますますの飛躍を期待します。