てつこてつ

ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~のてつこてつのレビュー・感想・評価

5.0
信友直子さんは、自身が乳がんに罹患した際のドキュメンタリーをフジテレビの「ザ・ノンフィクション」で拝見して以来、ずっと好きな映像作家さん。

お母様が痴呆症を患った本シリーズもテレビ版はもちろん、前作の映画版も鑑賞している。

ドキュメンタリー作品と言うと、どうしても社会的メッセージを発信したがる監督さんが多い中、信友さんの作品群は、扱っている題材自体は実はどの家族にも起こりうるシリアスな物であるのだが、悲しみよりも、もっとホッコリとした温かい感情、家族愛に満ち溢れていて、どのシーンも尊い瞬間に見えてくる。

痴呆症が深刻化する過程でも、どこか可愛らしく茶目っ気たっぷりなお母様、そんな妻や一人娘である直子さんを愛情一杯に見守る100歳を間近に迎えようとするお父様の何気ない日常、そして、残された家族の時間の一瞬一瞬を慈しむように大切に映像に収める信友さんの姿に心打たれる。

ナレーションも信友監督が務めているのが、この作品がどれほど彼女にとって大切な物なのかがハッキリと伝わってくる。

呉市の商店街や病院の人々の優しさも、彼らが使う方言の響きの柔らかさも相まって、令和の時代にはとても新鮮。

60年もの間、夫婦として連れ添った男女の偽りのない愛情の奥深さ・・お父様が入院したお母様をお見舞いに行った際に、真っ先に彼女の手を強く握ろうとするシーンが何よりも深く心に刺さった。

めでたく100歳を迎えられたお父様が、これからも健康でますます過ごされることを心から祈りつつ・・。

ちなみにプロデューサーの一人である大島新氏は、あの大島渚監督のご子息です。
てつこてつ

てつこてつ